視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
新島学園短大兼任講師 関野 康治さん(高崎市貝沢町)

【略歴】高崎高、早稲田大政経学部卒。銀行勤務を経て同大学院を修了。建設会社法務部門で不良債権処理、企業再生に取り組む傍ら、新島学園短大で講師を務める。行政書士。

核保有5大国が判断

◎北朝鮮制裁決議

 北朝鮮が核実験を行ったことから、国連安全保障理事会は先月十四日(現地時間)、北朝鮮を制裁する決議一七一八を全会一致で採択した。

 さて、北朝鮮が核保有国となることは隣国、日本にとって脅威であることはいうまでもない。まして拉致犯罪国家の核実験ということで、国民感情としても許されない。今回の北朝鮮の「核実験」は、どういう理由から制裁の対象になったのかを見ていこう。

 核兵器を取り巻く国際法は、実験を規制するCTBT(包括的核実験禁止条約)と、製造・保有・移譲を禁じるNPT(核拡散防止条約)という、大きく二つの条約規制がある。北朝鮮はCTBTに署名もしていないし、NPTからは脱退(表明)している。そうすると、北朝鮮が核兵器を製造しようと実験しようと、しないという「約束」をしてないのだから、原則として国際法上問題がないようにも見える。

 実際、平成十年五月、インドやパキスタンは核実験をしたが、制裁はされていない。両国ともNPTにもCTBTにも加入していない。つまり条約上の義務を負っていないから、文句を言われる筋合いはないというのが、主権国家が並存する分権構造の国際社会の大原則だ(その点が、統一権力がある国内社会との大きな違いである)。ところが、安全保障理事会は、北朝鮮の実験に対しては制裁決議をした。なぜか。

 北朝鮮の実験は、NPTから脱退しているとすれば、条約上の義務違反はないから違法ではないはずだ。それにもかかわらず、北朝鮮による核実験は安全保障理事会によって、国連憲章上の「平和に対する脅威」と認定された。そう認定されれば、同理事会による措置が決定できる(三九条)。その措置として制裁決議が決定されたというわけだ。

 周知のように、国際連合の目的は「国際の平和と安全の維持」にあり、国際連合憲章(連合国憲章)は、その「主要な責任」を、核保有五大国により構成される安全保障理事会に負わせている(二四条、一二条)。すなわち、国際連盟の失敗に反省して、大国の一致なくして平和を維持できないという確信があり、そこに現実国際政治の力関係が働く大きな余地(「法を超えた、力の優位」とでもいうべきもの)がある。今回の制裁決議は、五大国が「北朝鮮の核保有は危険」だと判断したということであり、だから「全会一致」なのだ。

 そう考えていくと、インド、パキスタン両国の場合は、「脅威」ではないと五大国は考えたということになる。これを五大国による「二重の基準」ないしは「二枚舌」と非難する向きもある。つまり、何で北朝鮮の実験だけが「平和に対する脅威」なのかというわけだ。

 しかし、これが統一権力の存在しない国際社会(分権構造)の現実である。国際正義という名の正義はあるようでなく、ないようであるようなもの。つまり、かげろうか蜃気楼(しんきろう)のようなものだ。

 こうして北朝鮮による核実験は、同理事会による制裁決議により国際法上違法ということになった(本来、違法の評価を受けない国際制裁はあってはならない)。






(上毛新聞 2006年11月18日掲載)