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全国フィルム・コミッション連絡協議会専務理事 前澤 哲爾さん(東京都品川区)

【略歴】館林市出身。慶応大卒。山梨県立大国際政策学部助教授。武蔵大客員教授。NPO一新塾理事。国際NGOシャプラニール評議員。地球環境映像祭審査委員長。

日本映画は元気か

◎いまだ「文化鎖国」状態

 日本映画が元気になったという記事をたまに見る。以前は「低迷」と言われていたから、それに比べれば喜ばしいことには違いない。スクリーン数は今年三千を超える予想だ。最低だった一九九三年に比較して千三百も増えた。昨年は三百五十六作品が製作され、興行成績に占める日本映画の売り上げが八年ぶりに40%台になった。

 興行では、実写作品に観客が来るようになった。昨年の<交渉人 真下正義><容疑者 室井慎次><NANA><電車男><ALWAYS 三丁目の夕日>が三十億円を超え、その勢いは今年も止まらない。先月の段階だが、<海猿2>七十一億円、<有頂天ホテル>六十億円、<日本沈没>五十二億円、<男たちの大和>五十億円のほか、十億円超作品がアニメ以外で八作品も登場した。確かに数字的には活況である。

 しかし、私は日本映画全体には大きな課題があると思っている。昨年製作の三百五十六作品とは、「映倫」マークを取得した作品である。一般映画館は全国興行組合に加盟していて、このマークがある作品しか上映できない。この数字の中で、全国公開される作品はわずか六十程度にしか過ぎない。さらに「ピンク映画」が例年八十―九十作品含まれる。残りの映画約二百作品は、いわゆる単館系作品なのである。

 最も極端な例は、東京・渋谷の映画館のモーニングショーで三日間上映し、「映画」という肩書きで、その後すぐビデオ(DVD)となる。数は多いが、全体の質には問題が多い。

 全国公開作品は、多くが「製作委員会」形式を取り、出資会社で著作権を分配する。まさに日本的、いわば護送船団でリスクヘッジする。その会社には必ずテレビ局が入り、放映権取得とともに、宣伝・広報で大きな役割を果たす。その結果、マスコミで知られた映画に観客が殺到する。その仕掛けの中には、映画俳優よりもテレビタレントを多く起用して、テレビとの連動の傾向がますます強まる。

 日本の大ヒット作品は、海外の人から見ると「拡大テレビ映画」に映る。これらの映画は、海外の映画祭ではほとんど話題にならない。つまり、国内市場専門映画である。

 一方、単館系映画では、その製作予算は全国公開作品の平均三億円―五億円に対し、六千万円―一億二千万円程度だ。日本の興行は寡占状態であり、上映本数が限定されている。その結果、興行収入をあきらめ、ビデオ収入を前提に予算組みをする。その中でも多くの作品が赤字を出し、誰かが負担している。また、逆にそういう仕組みで製作された映画は、全国公開できるようなものにはならない。

 ただ、多くの駄作の中に、将来の日本映画を背負っていく作品も生まれる。カンヌ映画祭をはじめ、多くの国際映画祭で上映され、評価される作品は日本であまり知られていない単館系作品である。

 日本は映画については、いまだ「文化鎖国」状態だと私は思う。元気だと言えるには、国際的に評価され、世界公開できる作品ができることだと思う。そのために私の課題は、本年度中に映画業界を国際化するための組織をつくることである。






(上毛新聞 2006年11月14日掲載)