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◎言語聴覚士 今回は、言葉やコミュニケーションの問題を扱う「言語聴覚士」という職の一端をご紹介する。 病気やけがで突然、言葉をうまく話せなくなることをご存じだろうか。例えば脳卒中(脳梗塞(こうそく)や脳出血など)が主な原因で起きる失語症という言葉の問題がある。言葉をうまく話せなくなる、言葉を聞いても理解できない、漢字やひらがなを読んでも分からない、自分の名前や住所さえうまく思い出せず書くこともできない―などの症状が現れる。 しかし、認知症とは異なり、人格や判断能力はあまり問題がないことも多い。働き盛りの四十から五十歳代で脳卒中になる方や、交通事故が原因で言葉の問題を抱えるといった若者も多い。昨日まで普通に会話や仕事をしていた人が突如できなくなるのは、本人にとっても周りの人にとっても相当ショックなことに違いない。 子供たちの言葉の発達についても問題が生じることがある。例えば言葉の相談会では、言葉がなかなか増えない、親や友人とうまくコミュニケーションがとれない、発音があいまいだ、ひどく落ち着きがないようだ―などの問題を訴える保護者も多い(詳細は拙訳書を参考にしていただくとありがたい)。そして、一人で悩み、家族内で孤立している母親も少なくないのである。同時に二つの問題(言葉と育児)を抱える家族は、さぞ困惑していることであろう。 話す、聞いて理解する、読む、書くといったことを、私たちはあまり苦労もせずに行っている。そのため、前述のような困難さはなかなか想像できないかもしれない。しかし、県内には言葉や聞こえ方、そしてコミュニケーションに問題(最近では食べ物でむせるなどの障害も)を抱えている方々が何百人、何千人とおり、日々困難に立ち向かっている。そして、そのような方に対して、病院や診療所、一部の小学校、介護施設などで、助言や支援、リハビリを行っているのが「言語聴覚士」である。 残念ながら言語聴覚士という職は、一般にはあまり知られていないようだ。人数や活躍の場が少ない、名称からは何をする職業か分かりにくい、そして、国家資格としてはまだ新しい(平成九年成立)―などが原因であろう。 しかし、最近では小学校に派遣され、教師と協力して言葉やコミュニケーションの問題に対処している広島県の例や、保健サービスの一つとして市町村と共同で仕事をする例など、県外では徐々に名称が知られるようになってきた。だが一方で、その低い知名度のためか、依然として県内では必要なサービスが必要な方に行き届いていない現状がまだある(例えば、沢渡温泉病院まで二時間かけて通う方もいる)。 そこで、知らなかった方は、今日はぜひ「言語聴覚士」という名前を覚えていただきたい。そして、そのような困難を抱えている方はもとより、市町村や保健、教育関係者にも、本県にいるこの人的資源をご活用いただければありがたい。 (上毛新聞 2006年10月31日掲載) |