視点 オピニオン21
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三宿病院薬局長 鎌田 泉さん(東京都大田区)

【略歴】桐生市出身。桐生女子高、東京理科大薬学部卒業後、薬剤師国家試験合格。国家公務員共済組合連合会虎の門病院勤務を経て、03年から三宿病院薬局長。

薬剤師が担いたいこと

◎魂ふれ合う医療の実現

 病院で患者さんから寄せられる苦情には、待ち時間にかかわることが多くあります。薬局なら調剤の時間を短縮する工夫ができます。しかし、調剤のスピードアップを図るために機械を導入し、人手を省くと、患者さんとの直接対話が困難になる場合もあります。また、あらかじめ印刷された紙で薬や治療の説明をすることは画一的であり、患者さんの本当に必要とする情報が届かないこともあります。

 治療方法は、患者さん自身が納得した上で選択されねばなりません。説明は患者さんや家族の気持ちを考えながら、疑問点を確認し、分かりやすい言葉で行いたいものです。

 医学は、この半世紀で飛躍的な進歩を遂げました。日本国民は皆保険制度により、誰もが平等な医療を受けられます。情報のあふれる現代では、医療への期待感が高まっています。同時に「医療を評価する社会的な視点」が育ってきたことも、近年の大きな特徴といえるでしょう。診断・治療について、複数の医療機関で相談するセカンド・オピニオンは、患者・医療施設の双方に大切です。

 病気が同じであっても患者さんの背景はさまざまです。また、どんなに医学が発達しても、人の死は避けられません。進行を止められない病気もあります。医療には「できるだけ長く健康に生きたいという希求を保証できない」という限界があるのです。

 治療方針について理解されないと、医療紛争という深刻な対立も起こります。医療紛争が訴訟に発展すれば、犯人探しと処罰に至ることになります。裁判では被害を主張する原告はもちろんですが、被告も大きく傷つきます。そのような過酷な状況は、裁判の当事者でない医療従事者の熱意も確実に奪います。

 現実に目を向けると、医薬品費も含めた医療費は削減を求め続けられています。しかし、これまで述べてきたように、社会から望まれる「迅速で、親切で、安全な高度の医療」を達成するのに最も不足しているのは、やはり手間と時間だと思います。それは熱意だけでは実現できません。

 忙しい現代社会で仕事の効率化が求められるのは当然のことです。しかし、子育て(教育)も医療も本来、手間と時間のかかることといえるでしょう。熱が出たり、けがをしたり、親の予定通りにいかないのが子どもの日常です。子どもを産み、はぐくむことの困難な社会に至る過程と、医療が崩壊するかもしれない過程は同じ根を有しているのでは、と危き惧ぐしています。

 私は仕事に役立つ知恵や自分らしく生きる意欲を、日々の患者さんとのかかわりや子育てという、効率とかけ離れたことから与えられてきたと感じます。現場で働き続ける薬剤師として、効率だけで評価されない魂のふれ合う医療を実現する役割を、少しでも担っていきたいと考えています。






(上毛新聞 2006年10月23日掲載)