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群馬大学教育学部教授 山口 幸男さん(前橋市千代田町)

【略歴】茨城県出身。東京学芸大大学院修士課程社会科教育専攻修了。専門は社会科教育学、地理教育学。日本地理教育学会会長、日本郷土かるた研究会会長。

本県の高校入試問題

◎地理で学会が高い評価

 日本地理教育学会の研究例会が今年三月、東京で開かれた。同学会は年五回程度、研究例会を開催しているが、この例会では「現代高校入試問題(地理的分野)の特色と課題―公立高校入試問題から現代の地理教育の課題を考える」がテーマであった。取り上げられた都道府県は本県のほか、東京都、新潟県、大阪府、青森県、島根県の計六都府県で、それぞれの公立高校入試の社会科の問題のうち、地理的分野にかかわる出題が検討対象とされた。

 この例会において、本県の入試問題は極めて高い評価を得た。「群馬の入試問題は、診断されるべき学力がバランスよく配置され、また、解答するプロセスに知識・理解↓思考・判断という一定の流れがある」。とりわけ、設問三のイタリアの南北格差を意図した課題設定の問題は「意欲・関心とともに思考・判断を伴うもので、大変ユニークである」と高く評価されたのである。

 これに対して、東京都の問題はリード文があまりにも長く、地理の問題というよりも文章読解力を試す国語の問題のようなものである、と不評であった。また、東京都の問題は具体的な地域が出てこないゆえに授業で特定地域を取り上げると不利な結果になるのに対し、本県の地域調査の問題(設問二)は、「事例地域との比較を通じて、自県の地域認識の定着をみようとしている点で興味深い」と好評であった。

 高校入試の社会科問題において地理的分野の出題が注目されるのには理由がある。平成十年告示の現行の中学校学習指導要領社会科地理的分野では、日本に関しては二―三の都道府県、世界に関しても二―三の国等だけを学習すればよいことになった。その代わりに地理的な視点や学習方法を学ぶことに重点を置く、いわゆる方法知重視の学習に変化した。

 私は、義務教育段階における地理学習は本来、世界や日本のさまざまな地域の地域的特色を知り、理解するところに本質的な意義があると考えている(内容知中心の学習)が、現行学習指導要領ではこの本来の地理学習の目的がかなえられない状況になっている。その結果、地理の高校入試問題では、具体的な地域(県、国、地方等)を題材とした出題は困難となり、抽象的な地理的技能・スキルを中心とした出題とならざるを得なくなった。

 このように出題方法・内容が大きく様変わりした中で、本来の地理学習の在り方ともかかわって、地理の入試問題がどうあるべきかが注目されているのである。

 そうした中、本県の地理の高校入試問題が日本地理教育学会によって高く評価されたことは最近の快事として大変喜ばしく、入試関係者の努力に敬意を表したい。入試問題が適切であるということは、単に入試だけの話ではなく、学校現場における日々の授業の向上・改善に連動していくものであり、本県の教育全体に好影響を及ぼすものといえる。






(上毛新聞 2006年10月3日掲載)