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県立女子大学長 富岡 賢治さん(東京都中野区)

【略歴】高崎市出身。東大卒。文部省初等中等教育局審議官、生涯学習局長、国立教育研究所長を歴任。03年1月から現職。青少年野外教育財団会長なども務める。

やる気になればできる

◎学力の向上

 私たちの県立女子大学に去年新しく創設した国際コミュニケーション学部では、卒業までにトーイック・テスト七百三十点に全員到達させるという教育方針を打ち出した。トーイック・テストというのは英語によるコミュニケーション能力を評価する世界共通のテストで、七百三十点といえば、英語が相当できると企業などでも大いに評価される水準である。この学部は、実践的な語学力を身につけさせることを第一の柱とした学部ではあるが、それでも全員到達を目標としたらどうかという私の提案には、当初、語学の教授たちは消極的であった。

 学部の特色から比較的入学者も英語が得意な者が少なくないとはいえ、それでも入学者の平均は五百点弱(全国の大学一年生の平均は四百点)で、これを二百点以上持ち上げるのは並大抵ではないという。しかも、入学選抜方法を複線化し、たとえ英語ができなくても意欲のある学生ならほかの教科の成績が一科目でもよければよいとする枠や、高校生までにいろいろな地域活動や部活動に熱心に努力してきたことなどを評価して入学を認める枠などを設けたので、そういう枠を通ってきた学生は入学当初の英語の力が低い者もいる。格差が大きいので、全員到達の目標はきつ過ぎるという。

 しかし、私は日ごろから思っている。語学だけではなく、勉強が進むかどうかは意欲の有無が決定的だ。具体的な目標を持って、それに向かって進もうという意欲を持てば、若者は思わぬ力を発揮するのだ。アメリカに移民する英語の基礎を知らない若者たちも、必死で生き抜こうとすれば英語がうまくなるではないか。やや高くても具体的な目標を設定させ、意欲を喚起していけば、どんどん伸びていくはずだと。

 説得があったからというわけではないが、最初は消極的な反応であった教授たちもその気になった。この学部の語学の授業は七割が外国人教員によって行われるが、その外国籍の教員たちも検討の輪に加わった。そして教授たちの熱心な取り組みが始まった。全員到達の目標を入学式で話したら、学生たちもエーッという顔をして、互いに顔を見合わせるのが壇上から見えた。

 計画をスタートさせてから約一年が経過した。一学年、約八十人の学生は一年間で平均約百点伸びた。英語力の低かった学生の層は平均約百五十点伸び、最大で三百点もスコアの上がった学生が出た。目に見える成果がもう表れ始めたのだ。全国でも、ここまで高い目標を端的に定めた大学はないと思う。卒業までに本当に全員到達できるのか正直心配だが、教授たちはいまや私より意気軒高である。やればできると。

 日本の子供たちの学力低下問題が、相変わらずにぎやかである。学力の向上のためには、教科の授業時数を増やし、教える量を多くするのがよいという誤った学力論を振りかざす者も多い。しかし、それは誤っているのだ。最も大事なことは、学習意欲を持って取り組めるかどうかである。力をつけるには、ただ量を増やせばよいのではない。意欲を持つようにする工夫が必要なのだ。






(上毛新聞 2006年9月25日掲載)