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さんすい森のリゾート社長 山田 直彦さん(みなかみ町湯原)

【略歴】法政大建築学科卒。東京でホテル経営のコンサルタント会社に6年間勤務後、帰郷してピザ専門店と和食の店を経営。湯原温泉街振興会副会長。

温泉街をつくる

◎水路を街並みの核に

 みなかみ町の湯原温泉街では、国からの支援を受け、町、町商工会、早稲田大学の協力を得て、「街なみ環境整備事業」が進められております。これは、私たちが住んでいる街を「これからどのようにつくっていくか」という大変意義のある、テーマをもった事業です。現在、月に一回程度のペースでワークショップ(WS)が開催され、温泉街の歴史をさかのぼってみたり、実際に歩いて街並みを観察して評価するなど、毎回さまざまな手法を使って研究が進められています。

 八月のWSでは、温泉街のすべての建物を一軒ずつ写真に撮って、建物カードを作成しました。並べてみると、普段では気付かない建物の特徴や課題、問題点が浮き彫りになってきます。イベントや箱物づくりとは違って大変地道な取り組みですが、「街をつくる」ということはベース(基礎)が大切である、とつくづく感じています。

 先日、この事業がきっかけで、早稲田大学建築学科の四年生二十人が「設計演習」という授業で、湯原温泉街を対象に街づくりの提案に取り組みました。この寂れた温泉街をどうつくり変えていったら、にぎわいを取り戻すことができるかというのがテーマで、予算や土地の問題など一切の制約をなくし、自由な発想で街づくりについて考えてもらいました。四月からおよそ三カ月間をかけて研究が進められ、その間、学生たちが何度も当地に足を運び、温泉街の隅々までくまなく調査してきました。そして、七月に行われた研究発表会では、さまざまな提案がなされました。

 例を挙げると、(1)複数の旅館を一体化させて庭園化する(2)道路の脇を流れる排水溝を水と親しめる水路にして、街中に張り巡らせる(3)現在計画中の町営駐車場をステーションにし、温泉街を車両通行止め・歩行者天国化して石畳の歩道にする(4)温泉街近くにJRのミニ駅を設けて、新しい玄関口とする―など、ソフト事業をうまく絡めたアイデアやハード面を大胆に提案したものなど、住民では到底考え付かないような夢のある発想がたくさんありました。

 今の湯原温泉街には核となるものがありません。例えば草津温泉の「湯畑」とか、伊香保温泉の「石段」といった、その街をイメージできるシンボルが、これから必要となってきます。しかし、巨費を投じて箱物をつくればいいというわけではありません。やはり「なぜこれなのか」という歴史的背景なり、コンセプトがあって、初めてシンボルとして生きてくるのだと思います。シンボルさえできれば、にぎわいが取り戻せるというわけではありませんが、やはりお客さまに楽しんでいただくアイテムの一つとして、重要なものとなってくるのだと思います。

 「早稲田案」を参考にすれば、水源の町である当地にとって「温泉街の水路案」がマッチしているのではないか、と考えます。街中に水路が張り巡らされ、そこでお客さまが水と親しむことができ、至る所でおいしい水が飲める。湯煙の立つ温泉街は、やはり情緒あふれるものだと思います。しかし、さらさら流れる水の音が聞こえる温泉街もみなかみらしく、素晴らしいのではないでしょうか。






(上毛新聞 2006年9月14日掲載)