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◎不便だが遊びたくなる 新聞やテレビのニュースなどで「ナニナニしたいものである」という表現がある。たいがい「見守りたい」とか「取り組みたい」という具体性のない言葉との組み合わせだが、「したいのか、したくないのか、誰がやるべきなのか、はっきりしてよ」と言いたくなる。「してみました」という話はあまり聞かない。 というわけで本日は、五月二十八日付のこの欄で「今ある古い建物と、もっといっぱい遊びたい」「仲間たちと二つの古い建物で大好きなブルースシンガーの歌を聴くぞ!」と書いたライブの報告です。 この夏、織物で知られる桐生の有鄰館と生糸で知られた前橋の群馬会館で二日間の「新井英一ライブIN絹の国」を行った。 有鄰館の煉瓦(れんが)蔵は当然のことながら客席も舞台もない。照明はあるけれど舞台用ではないから機材、設営をはじめプロにお願いした。どの席からも舞台が見えるようにと、ひな壇のような客席までつくってくれた。 私たちは駐車場の奥の倉庫から舞台をつくる台をリヤカーで運ぶ。開場に間に合うように折り畳みいすを運び出し、会場に並べる。汗まみれの作業だが、これが楽しい。コロッケパンをかじり、水をがぶ飲みし、ほとんど大人の体育祭であった。 新井英一という歌手も自分で動く人だ。スタッフの先頭に立って音響機材の搬入から設営、客席の手直しまでやる。煉瓦蔵の壁を見つめて「いい色だねえ。照明でこの色を生かしてくれないかな」と言う。 開演前、桐生スタッフによるコーヒーサービスで蔵に香りが広がる。本番では舞台と客席に一体感が生まれ、名曲「清チョンハー河への道」では会場が丸ごと揺れた。 次の日の群馬会館は、県内初の公会堂としての外観と改築によるゆったりした客席の組み合わせがいい。また音響も良い。来た人から「聴いてよかった。喜びも悲しみも怒りも全部、スケールの大きい歌だねえ」と言われた。 残念なのは以前、出られたバルコニーが閉められていることだ。古い様式の手すりは低くて危険なためらしい。また老朽化が進むという懸念もあるらしいが、現代の技術と県の予算で補えないのかな。スペインの詩人ロルカは「私が死んでもバルコンは開けておいて」と書いている。 また、何人もの人から冷房が寒かったという声があった。オンとオフしかないのだ。とはいえ、夏場の催事には長袖を持参するのが文明を生きる知恵だ、という説もある。また、駐車場が遠いともいわれたが、前述の有鄰館といい、古い建物には何らかの不便がある。 でも、ある学者によれば、私たちは遊ぶ動物なのだ。古い建物と遊びたいから汗をかき、工夫し、設備投資することができる。 ライブ終了後、「新井英一ウェブサイト」では有鄰館を「大正時代に建てられたレンガ蔵。過ぎた時の重みを感じます」、群馬会館を「昭和初期に建てられた重厚な建造物。音響も素晴らしい会場でした」と紹介している。 楽しんでくれたんだ! ぜひ、身近な古い建物と遊んでみてください。 (上毛新聞 2006年9月7日掲載) |