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◎15分だけ消してみよう テレビは楽しい。夕方から夜にかけて、好きなテレビ番組を楽しみにしながら家に帰る人も多いだろう。ちょうど、この時間帯はニュースやスポーツ、クイズや旅番組、そしてアニメ番組と見たい番組がめじろ押しである。 一方で、この時間帯は多くの家庭では夕食の時間でもある。そうすると、夕食時にテレビをつけている家庭も多いと思われる。子供たちの発達について相談を受けていると、夕食時はいつも親子でテレビを見ながら食べている、と答える保護者が多いようだ。年配の方でも似たような状況らしく、夫婦が二人ともテレビに向かって並んでご飯を食べる、という方もいるくらいである。 さらに話を聞くと、好きな番組を見るだけでなく、ただ習慣的にテレビをつけてしまう場合や、時計代わりにつけていると答える人も少なからずいる。実は似たような経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。そうすると、夕食時にはテレビも一緒に食事に参加している、という気さえしてくる。 テレビをつけて食事をしている場合、われわれの注意は一体どこに向いているのだろうか。人間はあまり器用ではないらしく、一般には複数の物に同時に、かつ平等に注意を振り分け、長時間維持することは難しいとされる。それは、テレビなどの視覚からの情報に注意を向ける場合に、特に言える。 例えば、好きな番組を見ながら夕食を取っているとしよう。番組内容と食べた物、それを食べた順番について、五分でも十分でも正確に記憶することができるだろうか。もちろん可能な方もいるかもしれないが、やってみると意外に疲れる。従って、夕食時にテレビを見るということは、われわれの注意はご飯や同席の人にあまり向いていない可能性が高い。それでよいのだろうか。 食事は栄養摂取だけが目的ではない。料理のにおいや見た目に対して体が敏感に反応するだけでなく、食事の行為自体が子供にとっては大切なコミュニケーションの練習の場ともなる。多くの家庭では、食事の時間には人が集まる。人が集まると会話が始まる。ご飯を味わいながら、会話の様子を見たり参加したりすることで、子供の脳が刺激され、社会性と情動をはぐくむきっかけになっていく。つまり子供にとって、食事の時間に大人と会話をする意義は大きい。この貴重な機会をテレビに取られてしまっては大変である。 そこで提案したい。夕食時に十五分間はテレビを消そう。たった十五分でもテレビがついてないと最初は不安になったり、黙ったまま食事を取ることになったりするかもしれない。だが、それでも良いではないか。黙っていれば、自然に味やにおいなどに注意が向くものだ。そして、うまいとかまずいとか言いながら、会話が始まるかもしれない。 会話を通したコミュニケーションの練習という視点からも、テレビを消して、ご飯とお互いの顔を見てほしい。夕食を味わいながら、きっとそのうちに会話が始まることだろう。 (上毛新聞 2006年9月4日掲載) |