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総務省市町村課長 小暮 純也さん(埼玉県草加市)

【略歴】伊勢崎市出身。前橋高、東大法学部卒。80年自治省入省。総務省地域放送課長、市町村アカデミー研修部長、内閣府防災担当参事官などを経て、今年7月から現職。

カスリーン台風

◎生かそう大水害の教訓

 今年の七月豪雨は全国に大きな被害をもたらしましたが、鹿児島県の川内川の決壊によりはんらんした水の中に点々と残された家屋の映像は記憶に新しいと思います。昨年のハリケーン「カトリーナ」による米国ニューオーリンズの水害は衝撃的でしたし、日本でも台風14号によって宮崎市の市街地を流れる大淀川があわや決壊という事態に陥りました。

 さて、群馬県は大丈夫でしょうか。実は大規模水害により甚大な被害を被ったことがあるのです。それは昭和二十二年九月の「カスリーン台風」です。同台風により利根川、渡良瀬川、荒川などが、また県内でも多くの河川が決壊しました。東京を含む広い範囲が水に漬かり、死者・不明者は全国で千九百三十人に上りましたが、このうち群馬県内の死者・行方不明者は六百九十九人で、最大の被害となってしまいました。

 わがふるさと伊勢崎市でも広瀬川と粕川が決壊し、市街地が水没してしまいました。もちろん私の生まれる前ですが、当時の被害の様子を何度も母から聞いています。当時、わが家は平屋でした。増水が激しくて屋根裏に逃げても、おなかのあたりまで水に漬かり、本当に怖かったそうです。二―三メートルは浸水したのではないでしょうか。その時、母は兄を身ごもっていたので、水に漬かりながら流産してしまうのではないかと気が気でなかった、という話に、洪水の恐ろしさを実感させられました。

 ところで、その後は堤防の整備も進み、水害による死者も減少傾向にありますが、もう安心でしょうか。残念ながら、大規模水害の危険はまだまだ大きいのです。年間の降水量は減少傾向なのですが、少雨と多雨の変動幅が大きくなっています。そして、集中豪雨の回数は増加傾向にあり、過去に経験したことがないような未曾有の豪雨も発生しています。

 このため、例えば百年に一度の豪雨に備えて堤防を整備しても、三百年や五百年に一度といった未曾有の豪雨では決壊してしまいます。ハードだけではなく、ソフトの対策も重要になってきています。既に、今年六月からは、早期避難を促すために利根川の堤防が決壊した場合の「はん濫(らん)予報」が開始され、群馬県内の四十五キロも対象になっていますし、また、利根川に注ぐ伊勢崎市内の広瀬川など県内の九河川が新たに洪水予報の対象に追加されています。

 さらに、政府では大規模水害が発生しても被害を最小限に食い止めるため、中央防災会議に「大規模水害対策に関する専門調査会」を設置し、先月から検討を開始しています。その検討状況も見ながら、群馬県内でも取り組みを始めたいものです。そして、大規模水害が起こっても被害を少なくするためには、カスリーン台風など過去の水害の教訓を生かすことが大事ではないでしょうか。「水は昔を忘れない」と言いますから、水害対策には特に効果があると思います。

 九月に入り、台風被害が本格化するシーズンを迎えました。カスリーン台風被害を教訓に、大規模水害への備えを進めたいものです。






(上毛新聞 2006年9月3日掲載)