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国際協力出版会編集部 富田 映子さん(東京都大田区)

【略歴】前橋市出身。前橋女子高、津田塾大卒。マドリード大ディプロマコース修了。JICAの関連組織勤務を経て、97年版から「人間開発報告書」日本語版の翻訳・編集を担当。

人間開発

◎国際協力どう取り組む

 国連開発計画(UNDP)は、世界の開発状況を『人間開発報告書』にまとめて、毎年発行しています。ところで「人間開発」とは何でしょうか。違和感を覚える方もおられるのではないでしょうか。

 『人間開発報告書』では、「開発」の最終目的は人間を幸せにする社会をつくることであるとし、そうした人間の生活を重視した開発を「人間開発」と呼んでいます。つまり、「人間開発」では、個々人の能力ではなく、人々が元来持っている潜在的な力を発揮できる環境が整っているかどうかを問題にしています。

 本書では、各国の状況を、人間開発指数(HDI)という指数順に並べ、毎年発表しています。二〇〇五年は、ノルウェーが一位でニジェールが最下位の百七十七位でした。では、ノルウェー人の方が、ニジェール人よりも幸せかというと、一概には言えません。しかし、ノルウェーで生まれた子供は、幼児期の死亡率も低く、平均して身体の発育も良いでしょう。本人が望めば大学以上の高等教育を受けることも可能です(公立なら高等教育まで授業料は無料です)。また、病気になっても適切な医療を受けられる可能性が高いでしょう。

 一方、ニジェールでは、五歳になるまでに命を落とす子供が千人あたり二百六十人を超えます。家事や農作業などで、小学校すらまともに行けない子供も多くいます。中学以上に進学できる子供は6%しかいません。

 この二つの国に生まれた子供の一生はかなり違うものになるでしょう。ノルウェーで生まれた子供は職業訓練を受けて技能を磨くかもしれませんし、高等専門教育を受けて研究者になるかもしれません。食事や運動に気を配り、高齢になっても元気に活躍するかもしれませんし、不健康な生活で寿命を縮めるかもしれません。

 一方、ニジェールの子供の三割以上は、小学校を修了せずに働くことになります。高等教育への選択肢は、一握りの子供にしかありません。教育が不十分なので就ける職業も限られています。幼少時の栄養不良がたたって体格も悪く、健康に不安を抱えることになる場合も多いのです。彼らが今とは別の生き方を選択するには、お金も、知識も、健康もあまりにも限られています。

 二つの国の子供のこうした違いは自らの努力の結果ではなく、彼らが生きている社会の違いです。たまたま貧しい国に生まれたために、可能性のほとんどが当初から閉ざされているとしたら、本当に残念なことです。

 日本を含む先進国は、途上国に対し多額の援助をしています。また、多くのボランティアが貧しい国に赴き、活動しています。国際社会が援助を行う理由はさまざまですが、根底にはこうした不均衡な世界を見過ごせない、そんな世界に住むのは居心地が悪いという人間としての自然な気持ちがあるはずです。

 今日の相互依存の世界に暮らす私たちは、国際協力にどう取り組むかによって、自らの世界観と生き方を試されているといえるかもしれません。






(上毛新聞 2006年9月2日掲載)