視点 オピニオン21
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元小学校長 松沢 清さん(千代田町萱野)

【略歴】豊島師範学校(現・東京学芸大学)卒。館林第二小校長などを歴任。県教委指導主事、県特別学級設置校長協会長、館林教育相談専門委員などを務めた。元みよし幼稚園長。

思いやりと慈しみの心

◎反抗期が育てる潮時

 子供の虐待、家庭内暴力、子供の誘拐など常識では考えられない痛ましい事件が続発している。

 誘拐のような事件を未然に防ぐための措置としては、防犯パトロールなどが行われている。小さい子供を持つ親の不安は大きく、適切なことである。

 こんな嘆かわしい事態に、なぜなってしまったのか。安定した生活を営むために、真剣に考えなければならない大きな社会問題である。

 その原因は多岐にわたるが、私は今回、思いやりの心、慈しみの心をいかに育てるかに的を絞って考えてみたい。

 子供が物事を身につけるには潮時がある。他人の気持ちを推し量ったり理解する能力は、何歳ごろに育つのか。その時期を逃さず、重点的に育てることが大切である。

 文部科学省では「脳科学と教育」の研究を進めているそうだ。私は脳科学については不勉強であるが、発達心理学の立場から、三、四歳、九、十歳、十四歳の反抗の強い時期が潮時と考えている。反抗は、自分の意見を主張し、それが相手の意見と異なることを知ることで起こる。相手にも考え方があることを理解しているので、人の立場、意見を聞く態度を培うよい時期である。

 親と子のかかわり方については、これまで述べてきたので、今回は思いやりの心の育つプロセスの一面を取り上げてみる。

 小学校二年生の例だが、私は山本有三の『路傍の石』をやさしく、かみ砕いて読んであげた時、ほとんどの子供が涙を流して泣いた。物語の中に入り込んで、主人公の吾一少年がかわいそうだと痛切に感じたのである。この学年のころは、本を読んだり、テレビを見たりすることから大きな影響を受けやすいので、読み聞かせは大変意義がある。

 三、四年生になると本から学ぶことも多いが、現実の遊びの中からも、思いやりの態度の重要さを見いだせるようになる。例えば、人の失敗を見て笑うのはいけないと遊びの中で気づくことがある。自分が失敗した時にほかの人に笑われると、人の失敗を見て笑うことは失礼だと強く感じる。やがて、Aが失敗するのをBが見ていて笑うような場面にも気づき、人の失敗を笑うことは良くないと、あらためて思うようになる。

 中学生になると、単なる遊び友達でなく、お互いの気持ちを理解し合えるような親友がほしくなる。しかし、なかなか見つからない。結びついたり、離れたりして迷うことが多いが、その苦労は人を見る目を養う重要な糧となる。ほんの一端しか述べることができなかったが、学力の向上とともに、心の教育は極めて重要な問題である。今こそ真剣に取り組まなければならない。






(上毛新聞 2006年8月22日掲載)