視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
|
|
◎自然や食文化を後世に 桐生市老人クラブ連合会とNPO法人・桐生地域情報ネットワークの共同事業も今年で四回を数える。今回は、財団法人・長寿社会開発センターの支援を得て「高齢者が伝える食の知識『粉食と山野草』」と題し、桐生が持つ自然や食の文化を後世に伝える事業を計画した。前の三回は桐生お召しをテーマに、二冊の本と十一本のDVD、さらにはホームページも作成した。今回は食と自然がテーマだが、どんなふうに展開するのか楽しみでもある。 一連の事業は高齢者が中心となり、群大生がお手伝いする多世代間の交流を力に推進し、高齢者の社会貢献の仕組みづくりも大きな目標である。前回の事業同様、委員長に群馬大学副学長の富山慶典氏、桐生市老人クラブ連合会より八十一歳だが元気はつらつの石川祐策氏、そして新たに桐生粉食研究会主宰の大里政由氏、さらには東京のNPO法人副会長や、地元の有識者を含む七人が委員となり、今月初めに実行委員会を立ち上げた。 小麦やソバなど、古くはカシやシイの実をすりつぶした穀物粉を調理した材を「粉食」と言う。辞書では「ふんしょく」だが、今回は「こなしょく」と読んで、少しばかり不思議な語感を楽しんでいる。粉食と山野草を選んだのには訳がある、桐生市は80%以上が山林という自然豊かなまちで、さらにすごいことに合併で赤城山頂(長七郎山)も桐生市となった。その植生豊かな山林には多くの山野草が育ち、山ろくの畑では小麦やソバが古代より栽培されていた。記録によれば、江戸時代の大飢饉(ききん)も山のおかげで被害は少なかったと聞く。それほど、人々に恩恵を与えてくれた山々でもある。 しかし、その粉食文化も山野草の知恵も若い世代に引き継がれてはいない。家々で打たれたうどんやそばなど、豊かな食文化は忘れ去られ、五十歳を過ぎた私の記憶にわずかに残る程度である。これではいけないと思った。どうにか残さないといけないと感じた。そして、今回の企画が動き始めた。 予定では、高齢者が講師となり、山野草の勉強会を開催。次いで、そば打ち名人育成講座を開催して、学生を中心に二十人の名人の育成に努める。これを弾みに大そば打ちイベントをやろうという企画である。会場は新里町や黒保根町が候補に上がる。赤城山のふもとでのイベントは爽快(そうかい)に違いない。赤城山もわがまちだから、愛着も一層わいてくる。山を眺めながら「えらく得したなぁー」と思うのは私だけだろうか。 この催しには、イベントの記録係、映像の編集係、会場のお助け部隊、ホームページの作成担当など多くのボランティアが必要である。気概ばかりで、人と金のないNPOなものだから、この企画に賛同される方はどうか協力をお願いしたい。ボランティアには無料でおそばを振る舞い、食やイベントを楽しんでいただく予定である。 子殺し、親殺しなど殺伐とした事件ばかりが目に付くこのごろ。こんなイベントを通して地域の歴史や文化を残す活動の中から、『人と人との関係づくり』を見直すイベントとなることを期待して、準備に励んでいる。 (上毛新聞 2006年8月13日掲載) |