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日本画家上野 瑞香さん(富岡市七日市)

【略歴】東京芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻日本画第三研究室修了。05年3月より富岡市内にアトリエを持ち、現在は個展、グループ展を中心に活動。


物の見え方

◎懐かしさは故郷の色彩

 これを書いている今は、毎日なんだかはっきりとしないじめじめした日が続いています。こんなときは気分も少し暗くなってしまいがちですが、さて、今日の天気はいかがでしょうか。

 晴れならば景色がさえて、とても色鮮やかに見え、曇りならばどんよりと色がくすんで見え、雨ならば物がぬれて少し暗いが晴れとは違ったはっきりした濃い色、またはザーザー降りのグレートーンでしょうか。

 皆さんは旅をして、物の見え方の違いに気付いたことはありませんか? 物の見え方の違い、つまり、目に見えてくる物の色合い・質感は、季節、地形、緯度経度や、光、例えば直射か反射かによって大きく変化してきます。なので、その物のある場所と太陽の関係でも、見え方が異なってくるのです。

 以前、ツアーで母とフランスへ行ったことがありました。二人ともフランスは初めてで、行く前からとても楽しみにしておりました。その日はベルサイユ宮殿の見学に、朝からバスに乗って向かっていました。ガイドさんの話も上の空で窓から外を眺めていたのですが、そのときです。突然、「絵の中の景色」が目の前に広がったのです。

 あまりの驚きに、「お母さん、お母さん、すごいよ! 絵の中そのまんまの景色だよ!」と叫んでしまいました。と、母も同じように感じていたらしく、「ほんとだねー、空とか木とか家とか、そのまんまだねー。きれいだねー」と、二人して思わず子供のようにはしゃいでしまいました。

 その旅行は確かに、フランス絵画の故郷(ふるさと)を訪れるツアーだったのですが、その時点ではまだ絵の中の場所に行ったわけでもなく、ただ通りすがりの、フランスの郊外にはよくある景色でした。しかしそこには、まるで絵の中にいるかのように、今まで何度も見てきた、あの、印象派の絵画の景色があったのです。それらは時が止まったかのような全く変わらない木々の葉の色、花の色、家、空など、あの絵の中の色、雰囲気、そのままなのです。

 なるほど画家たちは見たまま、感じたままを忠実に描いたのだなと、ひどく納得させられました。印象派の絵画とは、そういう光を描いた作品だと知ってはいたのですが、実際に目にしてみて、あらためて、やはりあの絵の通りなのだと実感しました。

 このように、色というものは、組み合わせや色調などの使い方、見え方、見せ方によって、時間や場所をそっくりと表すことができるのです。

 旅に出たり、展覧会で絵を見たりしたとき、初めて目にするものであっても、どこか「懐かしさ」を感じることはありませんか。それはそこの光が、その絵に描かれた色が、あなたのなれ親しんだ故郷の色彩と同じなのかもしれません。これを機会に、あなたのお気に入りの場所や物や絵を探してみてはいかがでしょうか。懐かしい色彩に囲まれた空間を見つけたり、つくったりすると心が癒やされ、きっと生活に彩りを添えると思うのです。






(上毛新聞 2006年8月11日掲載)