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8・12連絡会事務局長 美谷島 邦子さん(東京都大田区)

【略歴】正式名称は日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故被災者家族の会。事故で二男の健君を亡くした。現在、精神障害者共同作業所の施設長も務める。精神保健福祉士。


活動冊子の発行

◎空の安全への橋渡しに

 二十一年前の八月十二日と同じように夏の日差しが照りつける今日このごろ。月日の経過とともに、心の奥底に鎮めたはずのあの悲しみの日々が、見上げる青空のもとで突然わき出るように鮮明によみがえってきます。

 昨年は、日航ジャンボ機墜落事故から二十年たった遺族たちの心の軌跡を一冊の本にしました。流した涙を集めながら歩んだ二十年の月日を、そこに詰めました。二十一年の今年は、上毛新聞社のお力添えで、二十一年間の遺族会の活動をまとめ、「旅路 真実を求めて」という冊子にすることができました。多くの皆さまに読んでいただければと思います。

 空の安全を求める私たち素人の組織に、本当に多くの方々が支援してくださいました。とりわけ、群馬の皆さまが温かく見守ってくださることに、あらためて感謝の気持ちをお伝えします。

 8・12連絡会は、原因究明部会、残存機体保存部会、生存率向上検討部会、慰霊登山部会を持ち、事務局が部会のまとめをしながら活動してきました。そして、機関誌『おすたか』や文集『茜(あかね)雲』を発刊し、全国にちらばる遺族と情報を共有しました。インターネットのない時代に、こつこつと東京と大阪で会合を開き、会員にその都度、アンケートを取り、連携してきたのです。核になる『おすたか』は、今年で八十五号となります。

 ガリ版印刷の『おすたか』創刊号は、若い遺族たちが事務局に泊まりがけで作りました。事故後五年間は、まさに押し寄せる怒とうの中での会運営でした。二百八十家族の遺族たちは、亡くなった人々にできることを一つでも多く活動に取り込もうと努めました。弁護団の弁護士さんは、手弁当で遺族と同じ目線で活動に加わってくれました。

 この冊子の巻頭にある提言は、十六年前の不起訴が決定したときに連絡会が出した声明とあまり違いがありません。原因究明や、責任追及のためのシステムが改善されてこなかったことに、もどかしさを感じます。しかし、今後も粘り強く、市民が声を上げていくことが、事故への抑止力になると信じています。

 今年四月には、私たちの要望が実り、事故機の残骸(ざんがい)が日航の安全啓発センターに公開展示されました。事故を永久に残し、世界の空の安全論議をする場として生かしてほしいと思います。また、昨年起きたJR西日本・福知山線事故のご遺族から、「8・12連絡会の活動は、私たちの羅針盤です」と言われました。ご遺族の皆さまの苦しみを少しでも和らげることにつながれば幸いです。

 最近は、遺族と日航社員が同じテーブルにつき、安全対策を話す日もあります。二十一年の月日は、安全追求の活動には加害者も被害者もないことを教えてくれました。そして、安全追求の日々に終わりがないことも。

 私たち8・12連絡会の二十一年間の活動をまとめたこの冊子が、記憶が日々薄れていく中で、事故を後世に残し、世界の空の安全を求める人々との橋渡しになることを心より願います。






(上毛新聞 2006年8月8日掲載)