視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
県社会福祉協議会会長 宮下 智満さん(渋川市白井)

【略歴】早大卒。1962年群馬県庁入庁。医務課長、地方課長などを経て01年保健福祉部長。04年保健福祉食品担当理事。05年3月退職、同年7月から現職。


個人情報保護法

◎実態に合った改正望む

 昨年四月に個人情報保護法が全面施行されてから一年余りがたった。同法は、個人情報が不当に利用されることによる国民の不利益をなくすことを目的に導入されたものである。

 しかしながら、依然として事業者からの個人情報の漏えいが発生している。その一方で、同法に対する無理解や誤解などに起因して、必要とされる個人情報の提供までもが行われなかったり、各種名簿の作成が中止されたりすると、「過剰反応」といわれる状況が各分野で広くみられ、多くの混乱が起きているようである。

 つい最近も、シンドラー社製エレベーターによる死亡事故に関連して、同社製エレベーターの設置先リストが、個人情報保護を理由に提出を拒否されたというニュースにあぜんとしたばかりである。

 福祉の現場も例外ではなく、さまざまな混乱が起きている。

 いうまでもなく、社会福祉の援助を行おうとする場合、対象となる人が何に困っているのかということを明らかにすることが大前提である。貧困の状況、障害の程度、介護が必要な状態か、養育すべき保護者の有無など、プライバシーに深く立ち入り、個人情報を手にすることは避けられない。

 「個人情報の入手・管理・流通なくして、社会福祉援助は成り立たない」という前提に立って、社会福祉の関係者間では互いを信頼し、問題解決のために利用者の個人情報を流通させてきた経緯がある。そこには、福祉関係者(ボランティアも含めて)が知り得た個人情報を利用者の不利益に使うことはないであろう、という合意が成立しており、大変うまく機能していたと思うのである。

 そこに個人情報保護法が導入された。

 そこで何が起こったのかというと、第一に個人情報の入手が大変困難になった、ということである。「保護」ばかりが強調され、今まで入手できた情報が個人情報を理由に拒否されるケースが目立ってきている。特に、行政の対応は非常に厳格で、守秘義務のある民生委員・児童委員にさえ、その福祉活動に直接必要な住民に関するさまざまな情報が提供されにくくなってきているようである。

 第二には、管理している情報の利活用の手続きが大変煩雑になり、福祉関係者間の情報の流通、共有化がやりにくくなってきていることである。はっきり言って、保護法は福祉活動には大きくマイナスに作用していると思われる。

 これから先、個人情報の提供を拒否する人がどんどん増えていったとき、地域社会はどうなってしまうのか、空恐ろしい気がする。「個人情報の保護」は大事だが、もっと日本の社会の実態に合った保護の在り方があるのではないだろうか。明るい助け合い社会を展望できるような法改正を切に望むものである。






(上毛新聞 2006年7月24日掲載)