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柏レイソル編成・スカウトチーフ 小見 幸隆さん(神奈川県川崎市)

【略歴】東京都出身。サッカー元日本代表。69年読売クラブ入団。84年天皇杯優勝、85年現役引退。92年U―17日本代表コーチ、01―02年東京ヴェルディ1969監督。昨年末までFCホリコシ(現・アルテ高崎)監督。


W杯サッカーで思う

◎職人育成し代表選手に

 サッカーのワールドカップ(W杯)ドイツ大会が終わったが、W杯の一カ月間は地球上が静かになったのではないかと思うほど、本当にお祭り気分だった。日本人も喜怒哀楽が激しく表れたのではないか。余韻を残したままの人が学校や会社などにいるかもしれないが、それはそれでよい。私はサッカーの世界にいるから、いろいろなことを感じてしまったり、見えてしまった一カ月だった。そんな内容をストレートに述べてみたいと思う。

 日本代表がドイツから消えた日までに思ったことだが、メディア(主にテレビ)の代表チーム、選手の扱い方で、いささか不満を感じざるを得なかった。ドイツにいる代表チームを憶測交じりで語るアナウンサー、タレント、コメンテーターはまだしも、専門家として番組に呼ばれた元選手とか指導者までもが同じテンションで、同じ知識レベルかと思うほどの内容のなさだった。いらいらしてチャンネルを変えたこともあった。

 海外では、あまりサッカーのことが分からないアナウンサーがサッカーを語ることはない。だが、日本では専門家も番組の雰囲気にのまれて、現地にいる選手やテレビを見ている同業者に恥ずかしい発言が多々あったような気がする。

 テレビのバラエティーショーやワイドショー番組まで、W杯で盛り上がっていた中で、面白かろうがつまらなかろうが、サッカーの文化とか日本での歴史などを伝える絶好のチャンスだった。しかし、そういったものはなかった。サッカーファンはバラエティー番組で取り上げた方が着実に増えるのかと思うと、複雑な気持ちになった。

 さて、日本サッカーの今回の勝ち負けや将来について思うことは、私の主観にすぎないが、各ポジションに職人がいなくなったということだ。私の周りというか、身内に職人といわれた人たちが多かったせいか、特にそれを感じる。映画のカメラマンだった私の妻の父親が、こんな話をしていたことがあった。

 「テレビでも、映画でもデジタルビデオカメラの時代がきて、機械の技術的な進歩で腕自慢ができなくなった。昔は、女優をきれいに撮る、撮らないも、おれたちの腕次第だった」。映画職人のぼやきだったが、こうしたことは職人の世界だけの話ではない。

 サッカーの話に戻って考えると、メキシコオリンピックのときの釜本邦茂さんや杉山隆一さんら、その時代の人たちが代表クラスになるには、そのポジションの職人でなければならなかった。これは言いすぎでも何でもない。もし、サッカーをやっている選手、指導者たちがそれに気付くことなく過ごしていけば、どうなるか。

 サッカーの指導者が「指導ライセンス」を求め、「指導マニュアル」に沿って育成していくとすれば、若いこれからの選手は皆「どんぐりの背比べ」となり、本当にいい選手は育たないのではないだろうか。






(上毛新聞 2006年7月22日掲載)