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◎危機にひんする在来種 早春から初夏にかけて、道端に咲くあの青紫色の花オオイヌノフグリを知らない人はいないだろう。この花はゴマノハグサ科クワガタソウ属に位置づけられる古い時代(一八〇〇年代)からの帰化植物である。クワガタソウ属を学名でウェロニカ属(あるいはヴェロニカ属)という。 オオイヌノフグリは学名ではウェロニカ・ペルシカと呼んでいる。ウェロニカは十字架を背負ってゴルゴタの丘を登るイエス・キリストの血と汗で汚れた顔を布でぬぐってやった女性の名前だそうだ。ペルシカは「ペルシャの」という意味で、その原産地を表しているらしい。この仲間に花の色や形態のよく似たヨーロッパ、アジア北部原産の大型の水辺植物オオカワヂシャという帰化植物の分布拡大が近年問題になっている。 もともと、水辺にはカワヂシャという同属の植物が自生しているが、繁殖力の旺盛なオオカワヂシャがその生態的地位を奪い始めたのである。カワヂシャは環境省評価準絶滅危き惧ぐ種(群馬県絶滅危惧II類)に指定され、県内では当面絶滅の恐れはないが、将来的に絶滅の恐れがある種類となっている。花の大きさ、色、形といったら、比べものにならないくらいオオカワヂシャの方が勝っているので当然であろうが、その勢いのすさまじさに、ここでもまた驚くほどである。 この植物も、今回の外来生物法で規制の対象となった種である。オオカワヂシャの花は、前述のオオイヌノフグリによく似ているが、花の付き方が違う。それが総状花序といって穂状に花茎を伸ばしてたくさんの花を付けるのだから、目立つ存在である。 最近ではオオカワヂシャとカワヂシャの自然雑種もつくられ、ホナガカワヂシャが見いだされているという。カワヂシャの純血も汚染され、遺伝子が変えられようとしている。一九九八年、兵庫県立尼崎小田高校の田中俊雄氏はカワヂシャの花粉がオオカワヂシャについてできる雑種一個の果実中の種子数はわずかであるが、オオカワヂシャの花粉がカワヂシャの雌しべについてできる果実の方が三十個から、時には百個の発芽能力を持った種子を形成する性質のあることを実験によって確かめた。 これはオオカワヂシャの生態的優位性による侵入、生理的優位による雑種の形成で、明らかに純粋な遺伝子を持つ在来種カワヂシャの生育が危機にひんしている証拠である。 北関東地方のその分布を調べてみると、本県を流れる石田川、本県と埼玉県境を流れる利根川、栃木県を流れる才川、鬼怒川、埼玉県の荒川では普通に見られる種になっている。利根川のある支流では高さが二メートル、太さも三センチになるオオカワヂシャを見たことがある。全国的な広がりについては今後の調査で分ってくると思うが、大規模に起こっているこのような自然環境の変化を知り、水辺の環境をこれ以上不用意に破壊しないようにし、不法投棄など自らの生活環境を守るようにしなければならないだろう。 (上毛新聞 2006年7月13日掲載) |