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東京農工大学名誉教授 鹿野 快男さん(高崎市城山町)

【略歴】東京都出身。明治大大学院博士課程修了。主な専門は磁気回路、リニアモーターなど電磁機器の福祉機器への応用研究。元国立公害研究所客員研究員。現在、ヤマト環境技術研究所顧問。


誇れない車の保有台数

◎公共交通を使う知恵を

 かつて、昭和二十八年六月まで高崎―渋川間を路面電車が走っていたという。さらに前橋―渋川間、渋川―伊香保間も走っていたそうである。「伊香保の登山電車」の愛称で親しまれていたが、バスの発達と設備の老朽化に勝てず、廃止されたとのことである。県民の共通財産をもったいないことをしたと思う。ところが、今では路面電車を廃止に追い込んだバスを利用する人が少なく、バス会社は経営不振。県内の鉄道もまた、資金補助を必要としている。

 一方、本県に在住する千人当たりの自動車保有台数は六百十二台で全国一位である。一世帯当たりでも一・七台(昨年三月末現在、自動車検査登録協力会調べ)。家庭経済が豊かだから、自動車を保有することができるのは、喜ばしいことである。しかし、その半面、皆が公共交通を使用せずに、便利な自家用車に頼っていることはエネルギーを浪費し、大気を汚し、炭酸ガスを多量に排出しているということでもある。生活の便利さをできるだけ損なわずに、自家用車保有台数を削減することはできないであろうか。

 前橋市が「デマンドバス」を試験的に導入するそうである。利用が多い個所に停留所を二百カ所程度設置し、上毛電鉄の発着に合わせ便利に利用できるようにするとのことであり、大変喜ばしい計画である。こういう計画は、ぜひ進めてもらいたい。自家用車を使ってバスを利用する人が少なくなり、バス会社は経営が成り立たないからバスの本数を減らす、本数が少なく不便だから市民が自家用車に頼る、という悪循環をここで断ち切ってもらいたい。

 われわれ市民も便利とはいえ自家用車に数十万、数百万の経費を払い、かつ、税金で公共交通手段に億単位の補助金を支出する、という大変な犠牲を払っていることを認識しなくてはならない。環境保護を考え、せめて一家に一台の自家用車にとどめ、皆で公共交通を使いたいものである。それには交通手段だけではなく、市民の生活を基本的に見直し、生活しやすい状況をつくり出す必要がある。

 市町村役場、法務局、学校、病院、音楽ホール、商店街などに行くのに、鉄道と連携したバスなどの公共交通で簡単に行けるようにしたい。主要駅の周辺は、公共交通だけで十分賄えるよう工夫し、年中、歩行者天国が当たり前の状況にしたい。そこには個人商店が並び、人情市のようなフリーマーケットなどが常設される。広島や長崎の路面電車は百円で乗り降りできて、大変便利であり、利用者が多い。あのようにバス(できればトロリーバス)が利用できるようにしたい。また、自転車の利用も増やしたい。

 やがて、少子化に伴う交通機関利用者の減少、逆に高齢化による公共交通の需要増加が予想される。また、今のままでは商店街のゴーストタウン化が心配される。環境を保護しつつ、市民の人間らしい便利な生活をつくり出すために、もっと知恵を出し合ってほしい。






(上毛新聞 2006年6月19日掲載)