視点 オピニオン21
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県立女子大学長 富岡 賢治さん(中之条町四万)

【略歴】高崎市出身。東大卒。文部省初等中等教育局審議官、生涯学習局長、国立教育研究所長を歴任。03年1月から現職。青少年野外教育財団会長なども務める。


緑が少ない街

◎味わいや情緒に欠ける

 本県の市街地は緑が少ない。街路や街並みに木が少ない。気持ちのよい並木道が少ない。本当にそう思うのだ。

 そう言うと、みんな奇異に思うらしい。群馬は上毛三山に囲まれ、利根、烏からす川などの自然環境豊かな山紫水明の地、街を一歩出れば、緑豊かな土地ではないか。変なこと言うなあ、と。

 確かに、県の平野部から見た群馬のパノラマは素晴らしく、ふるさと群馬の風景は緑豊かな山と川なのだ。しかし、それは街の外の風景。どうも、われわれは自然環境に甘えて、自分の身の回りの生活の中の緑の確保をやや軽んじてきたのではないか、と思っている。

 本県の市街地は緑が少ないという印象は正しいものか、インターネットなどで検索してみた。都市の緑化率をずばり示す資料は見当たらない。道路の緑化率の全国の比較統計があった。県内の道路緑化率は総じて低い方に位置づけられている。予想に反し、高い緑化率となっているのは東京都や大阪府などである。ビルが密集し、自然環境に乏しい地域だからこそ、逆に街や道路に緑を配することに熱意を持つ。しかし、豊かな自然環境に囲まれていると、ふと忘れてしまうものなのだ。

 もっとも公園という切り口で見ると、その整備状況では本県は決して悪い方ではないが、要は街の中に緑豊かな散歩道や風情のある道がやや乏しいのではないか、と思うのだ。

 県外から来て住居を群馬に構えた友人たちは、群馬は住みよい所だと言う人が多い。それは、まちづくりへの行政や企業や市民の総合的な努力による成果だと思う。それは十分評価した上での話だが、群馬の街並みはもう一つ味わいとか情緒に欠けるのだ。ちょっと品のよい散歩道や並木通りをそぞろ歩きでショッピングする人たちの姿を街路で見かけない。殺風景なのだ。

 クルマ社会では、ある程度は不可避なのかもしれないし、地方都市の中心市街地がすたれる様子は全国的傾向だ。でも、本当にそうなってしまうだけなのだろうか。私は、そうとも思えないのだ。クルマ社会で、大型ショッピングセンターが郊外にという時代の先輩であるアメリカでも、地方都市や大都市の郊外のベッドタウンの中で、個性的で味のある街やストリートには結構、人が出てにぎやかである。カフェやレストランにも老人ばかりでなく若い人が集まっている。

 日本の地方都市でも、趣のあるセンスのよい街路には人が集まっている。緑の滴る、よい街並みは風情が醸し出され、ちょっとした歌ができるではないか。そういう街には人が集まり、住む人も誇りを持つ。群馬の街が歌にあまりなっていないのは、そういう風情、情緒にやや欠けるのではないか。

 平成二十年に本県で「全国都市緑化ぐんまフェア」が開催される。「緑豊かな街づくり」をテーマに「窓辺に花を・くらしに緑を・街に緑を」をサブテーマにするという。公園の整備ではない。むしろ、街に緑を配して情緒のあるワンランク上のまちづくりのきっかけになってほしい、と思っている。






(上毛新聞 2006年6月15日掲載)