視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
国際協力出版会編集部 富田 映子さん(東京都大田区)

【略歴】前橋市出身。前橋女子高、津田塾大卒。マドリード大ディプロマコース修了。JICAの関連組織勤務を経て、97年版から「人間開発報告書」日本語版の翻訳・編集を担当。


異文化を認める

◎多様性は活性化への鍵

 世界にはさまざまな民族や文化的、宗教的背景を持った人々が暮らしていますが、単一民族が一国を形成していることはまれで、多くの場合、多様な民族や、文化・宗教の異なる人々が、一つの国の中で暮らしています。また、世界の三分の二以上の国は相当数のマイノリティー(少数者集団)を抱えています。

 国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告書』は、各国の人間の生き方の豊かさを測る人間開発指数(HDI)など、いくつかの指数を毎年発表していますが、それだけではありません。二〇〇三年には「文化的多様性」を取り上げ、世界で約十億人が少数者として差別されているが、安定した社会を持続するには、文化や民族の違いを認め合うことが唯一の方法だと指摘しています。

 報告書が文化の多様性を取り上げた背景には、〇一年の米中枢同時テロをはじめ、「文明の衝突」とでも取られかねない事件が次々に起こっていることがあります。では、異質な文化や異なる民族が一つの国の中で共存するのは無理なのでしょうか。多様性は、私たちの生活にとってマイナスなのでしょうか。

 報告書は、欧州社会の移民受け入れやラテンアメリカ諸国の先住民族への対応など、問題を抱えながらも異なる民族と共存する努力をしている国々の姿を伝えています。また、多言語国家のベルギーやスペインが、各地域の自治権と独自の言語の使用を広く認めることで、人々が固有の民族としての誇りと、国民としての自覚の両方を確保していることを肯定的に報告しています。

 現実が甘くないのは、これらの国ではさまざまなあつれきがあり、解決に苦慮していることからも分かります。一方で、活発な議論を重ねることで、自国の統一を民主的に守ろうとする真摯(しんし)な取り組みも続いています。

 報告書は、人種隔離政策と闘った前南アフリカ大統領、ネルソン・マンデラが民主的国家をつくる上で述べた「私たちは肌の色や人種の多様性を強さの源泉と考えることを選択した」という言葉を紹介しています。

 均一な社会といわれる日本では、こうした多様性を理解することはなかなか難しいことです。しかし、身近に外国人居住者が増えつつあり、異文化にどう向き合うかが問われる場面が、日常の生活の中でも多くなっています。外国人やその子供たちにも適切な教育や社会への公平な参加を保障しようとすれば、公共サービスの費用や労力がかさみます。これまでは不要だったさまざまな措置をとる必要が出てくる上、常に対立の火種を抱えることにもなります。異文化との共生は、私たちの社会にとって大きな挑戦です。

 しかし、彼らが私たちとともに日本の産業や社会を支えていく可能性は今後ますます大きくなっていくでしょう。議論を恐れず、互いに違いを尊重し合い、共生への努力を続けることで、異なる経験や知恵から活力が生まれ、選択肢のより広い社会への可能性が開かれることを信じたいと思います。






(上毛新聞 2006年6月9日掲載)