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沢渡温泉病院言語聴覚士 長谷川 靖英さん(中之条町西中之条)

【略歴】93年国立身障者リハビリセンター学院修了。同年から沢渡温泉病院に勤務。05年6月「Q&A『きこえ』と『ことば』の相談室」を翻訳出版した。


言葉などの問題

◎無知が偏見や差別生む

 無知とは恐ろしい。知らないことが命にもかかわる時代になった。一九九九年九月に起きた茨城県東海村のウランの臨界事故は、その典型例といえる。原因は放射性物質の容量や扱い方を誤るという人為的ミスとされたが、少しでもウランの核分裂や臨界の知識があれば、死者までは出さなくても済んだのではないかと、多くの専門家が指摘した。突然の事故に驚き、また知識の大切さを感じたことを思い出す。

 生命に危険はないが、同様に無知が偏見や差別を生むこともあり得る。例えば、言葉やコミュニケーションに問題や困難を抱える人たちのことを、世間はどれだけ理解しているだろうか。このような人たちは、厚生労働省などの調査によると、全国に百万人はいるとされる。だが、医療機関にかかっていないなど未確認の人もいるため、少し多めに見積もると、県内では百人中一―二人が言葉やコミュニケーションに問題を抱えていることになる。これは決して少ない数ではない。

 車いすを見れば、障害のある人がいるとすぐに分かるが、言葉の問題は外見上は分からないことが多い。しかも一人一人症状は異なる。例えば大人では、発音があいまい、思うように言葉が話せないなどが、また子供では、言葉数が増えない、遊びや関心が偏る、周囲と意思疎通が難しいなどがよく見られるものの、一様ではない。人数的には少なくないが、あまり目立たたず、症状も多岐にわたることからも、このような人たちのことを理解してもらえないことが多い。

 さらに、理解不足が偏見を生み出すこともある。ここで想像してみよう。あなたが高崎駅のホームにいるとき、若い男性が独り言をつぶやきながら近寄ってきたとする。そして、突然「この電車のグリーン車は最近まで東海道線で使っていたやつだよね?」と質問されたら、あなたはどうするだろうか。驚くのは仕方がない。だが同時に、怖い、気持ちが悪いと思い、無視するかもしれない。

 なぜだろうか。それはそのような人たちを知らないことが原因ではないか。知らないから怖がる。しかし、ほとんどの場合、普通に返事をすれば何も問題はない。普通に接すればよいだけのことである。言葉やコミュニケーションに問題を持つ人の多くは、会話が少々下手で、やや不思議と思われる行動は見られても、危険な行為はしない。実際に私が「ちょっと分からないですね」と言ったら、残念そうな顔をして、その場をすぐに去った。それだけである。

 変な人だ、気持ちが悪いと思うと、そのような人たちを避けてしまうだろう。そして、そのことが障害のある人たちを誤解し、ひいては差別につながる。それでは本人や家族がつらい思いをするだけである。

 まずは、言葉やコミュニケーションに問題を持つ人々を取り上げている本(図書館にたくさんある)やテレビ(例えばNHK教育テレビ)を見てほしい。われわれの近くで彼らが一緒に生きていることが、きっと分かってもらえるだろう。






(上毛新聞 2006年6月7日掲載)