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柏レイソル編成・スカウトチーフ 小見 幸隆さん(神奈川県川崎市)

【略歴】東京都出身。サッカー元日本代表。69年読売クラブ入団。84年天皇杯優勝、85年現役引退。92年U―17日本代表コーチ、01―02年東京ヴェルディ1969監督。昨年末までFCホリコシ(現・アルテ高崎)監督。


緊急時の優先順位

◎悔やまないよう勉強を

 サッカーの指導の中ではいろいろな言葉が使われるが、その中にプレーの選択肢を決める瞬時の判断に「優先順位を間違えるな」と要求する場面が多い。

 サッカーのゲーム中か練習中での話だから、あっても三つか四つの選択肢に優先順位があるわけで、難しいことじゃないと思ってみるが、言うとやるとでは大違いなのだ。なぜかと言えば、判断する時間がまずない。そのほか、敵からのプレッシャー、勝負へのプレッシャー、観客からのプレッシャー等、その場面によって、かなり困難を極めることになる。

 シュートかパスか、またはドリブル突破か、なんていう一見楽しいはずのシーンですら、間違える選手は数え切れないのである。生活の中でも常にさまざまな判断をしていく必要があるが、一晩も二晩も考えていいときがあれば、サッカーのように全くといっていいほど時間がないこともある。

 例えば、台所や食卓で天ぷら油に火がついたとしたら、その場にもよるだろうが、そばに子供がいたり燃え移るものがあったりで、ゆっくり考えたり、人に聞いたりはしていられない。こういう緊急時に優先順位だとか、判断基準を整理したり考えたりすることは並の人間にはできない。

 サッカーの試合の中では命にかかわることではないが、判断、行動が同時に瞬時に行われなければ、いい選手とは言われないのである。さて、あえてサッカー選手を例として言わしていただくが、このようなピンチをどう切り抜けるか、またはチャンスをどう生かすか、最高の集中力が必要になるのだが、判断力だけでは成功率が上がらない。つまり、日々の訓練というか、トレーニング(試合も含む)の中で頭と体にたたき込む必要がある。

 そして、特に緊急時のマニュアルとして頭に記憶することが大切である。記憶させるにはキーワードのようなもの、または印象的な短い文でもいい。サッカーの試合に勝つ、いろいろな局面で相手に勝つには、そんな工夫が選手にも指導者にも不可欠なのである。

 サッカーの試合中の分かりやすい例として、守備側の立場からよく言われることだが、「バウンドさせるな」とほとんどの選手が聞いてきた。しかし、少年やアマチュアの試合中にはよくあるシーンで、必ずといっていいほどピンチを招いているのである。攻撃側にチャンスを与えるだけの凡プレーでしかなく、緊急時のマニュアルがたたき込めていないのだ。技術的にできない場合と、やろうとしないのは別次元の話なのだと思う。

 話は戻るが、天ぷら油に引火したら、まさか水をかける人はいないと思うが、認知、判断、行動の中でいかに緊急時のマニュアルを正しく認識しているかが、とても大事であることが分かると思う。それぞれの生活や立場に物事の判断や優先順位があるとは思うが、スポーツも実生活においても緊急時はいつ来るか分からない。悔やまないために勉強しなければ、と言い聞かせたい。











(上毛新聞 2006年6月1日掲載)