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平方学園創世中等教育学校長 桜井 直紀さん(前橋市青梨子町)

【略歴】東京教育大卒。高校教諭、県教委青少年課長、学校指導課長、沼田女子高校長、高崎高校長を経て前橋市教育長。05年から現職。県子育連学術委員。


「先取り」の生徒指導

◎一人一人に声かけよう

 学校教育が成果を挙げるかどうかの一つとして、先生と児童・生徒との日常的な結びつきの深さの度合いがある。その基盤は両者の間で互いに言葉を交わし合うことにより、形づくられるものと考えている。第五十回全国私立学校教育研究集会の収録に記載されていた大分大学の藤井昭義先生の講演を読んで、あらためてその意を強くした。その内容は次のように記載されていた。

 藤井先生が広島大学の先生と、大分および広島市内の中学生と高校生を対象に、生徒が担任の先生と顔と顔とを合わせて話をした時間の調査を実施したところ、生徒の側からの認識では、一週間で一人当たりに平均すると六秒から十三秒ということであった。これを読んで、こんなにも少ないものかと思うとともに、現実に先生と生徒とが顔を合わせて一対一で話をしている様子を見ていると、それくらいのものかなとも感じた。

 教員はホームルームや授業を通じて、児童・生徒に話をしたり、意見や考えを聞いているが、それは学級としての集団に対して行っていることが多い。何か問題を抱えている子供や、よく質問にくる子供を除けば、顔と顔とを合わせて話をしたり、聞いたりする時間は自分の経験からも意外と少ないものと感じている。このようなことを考えながら、早速、教職員にこの話をして、生徒との話し合う時間をどのように確保するかをあらためて考えようと呼びかけた。

 教員が個々の児童や生徒と直接に向かい合って日常的に話し合いをすることは、子供に対する理解を深めるという生徒指導の基本である。その中から子供の抱えている問題などを把握し、次の対応をしていくことが「先取り」の生徒指導となる。この指導が本来的に大切であるが、現実には何か問題などが生じたときに「話を聞く」ことが多く、結果として「後追い」の指導となっている。

 現在の社会では、子供の欲望をそそるものが数多くあり、これらを取り除くことも大切であるが、このこと自体は簡単にできるものではない。このような中でこそ、子供が学校や家庭での生活を楽しいものとしていくことが大切であり、また、学校には自分の居場所があり、そこに存在しているとの気持ちを持たせることである。

 言うまでもなく、子供が活動している時間の中で最も多いのが学校にいる時間である。この時間帯を楽しいものとしていく上では、授業が分かるようにすることも大切であるが、その前提として自分が学校に来ているという存在感を持たせることである。短時間であっても子供一人一人に声をかけ、会話をすることに教員が取り組むことで、子供は学校に来てよかったと思うこととなる。

 このことは問題が発生しやすい中学生や高校生の年代こそ大切であり、結果として先取りの生徒指導となり、子供の成長に大きなプラスになる。












(上毛新聞 2006年5月31日掲載)