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絹俳句会主宰 高橋 洋一さん(富岡市黒川)

【略歴】甘楽農業高(現富岡実業高)卒。国鉄勤務の傍ら俳句を始め、上村占魚、清水寥人の門下となる。句集発行のほか、村上鬼城賞、県文学賞などを受賞。


看護師さんのこと

◎親切はこの上ない良薬

 十年ほど前のことである。私は現役のJRマンで、高崎支社の高崎車掌区に勤務していた。健康管理のために行った人間ドックの結果は、「胃に異常が認められるので再検査」という通告を受け、早急に専門医に診てもらうようにと指示された。

 精密検査の通告書には、病院は任意に選べるとあったので、富岡准看護学校の講義が同じ時間帯で、講師室でよくご一緒になり、親しくしていただいたK先生にお世話になることにした。

 持参した人間ドックの検査資料に目を通された先生は、即座に「内視鏡でのぞいてみましよう」とおっしゃった。話に聞いたことはあったが、胃カメラをのんだ経験はない。一瞬ひるんだ私に気づかれた先生は「すぐに終わりますよ」と慰めてくださった。

 胃カメラをのむのは思ったよりきつかった。涙を流しながら、のめずに苦しんでいたとき、若い女性看護師さんが、見兼ねて私の背中をなでてくれた。そして「頑張って」とやさしく声を掛けてくださった。人一倍丈夫で通っていた私は、人さまに背中をなでていただいた記憶はない。だから、涙が出るほどうれしく、ありがたかった。

 背中をなでていただくと不思議に緊張がほぐれ、体の力が抜けてカメラが自然に前に進んだ。結局、看護師さんは最後の最後まで背中をなで続け、いたわりの声を掛け続けてくださったのである。

 背中をなでるという動作と、声を掛けるという一見単純な動作と励ましが、苦しむ人にとってどれほど大きな安らぎになり、活力になるのかを初めて体験させていただいた。そして親切は最高の看護であり、この上ない良薬だと痛感した。

 お礼を言い、深く頭をさげたあと「患者さんにはいつもこんなに親切なのですか?」と尋ねた。「私は一昨年、富岡准看護学校で高橋先生の授業を受けました。あのとき、俳句のことはよく分かりませんでしたが、患者さんには精いっぱい親切にしてやるようにと俳句の作品を通して教わりました。それをできるだけ実行しています」。夢のような返答にびっくりした。

 授業中「昨夜、深夜勤務でどうしても眠い人は眠ってもいいよ」と言ったら、最前列にいた女生徒が最初に眠ってしまい驚いたこともあったが、一番大切な、心を美しくして「親切な看護の実行」を、たとえ一人でも聞いていてくれたことが、とてもうれしかった。

 平成七年から富岡准看護学校で教え始めたが、あの看護師さんに会ってから、同校の講義に行くときは足が軽い。

 看取(みと)る身は耳(みみ)聡(ざと)くいて明易(あけやす)し

 朝顔に看護の髪を小さく 結う

 日本看護協会で募集した優秀作品で、この「心の美」をいつも皆さんに紹介し、俳句を通して人間らしい親切心を提言している。












(上毛新聞 2006年5月29日掲載)