視点 オピニオン21
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元小学校長 松沢 清さん(千代田町萱野)

【略歴】韓国ソウル生まれ。福岡サン・スルピス大神学院卒。89年から現職。著書に「泥沼の中にある福音」「遮られた非常口―あるつっぱりたちの記録」などがある。

我慢をはぐくむ(上)

◎できたら褒めてやろう

 「ほしがりません、勝つまでは」と戦時中、強く言われたことの反動として、戦後、自己主張が強く叫ばれ、自己抑制・我慢の教育が否定された。自己主張をはぐくむことも重要であるが、安定した社会を営むためには秩序が必要であり、悪いことはしないという自己抑制、つまり「やらない気」を子供の時から育てる必要がある。

 人間が物事を身につけるには適時性がある。育つ力を見極めて、いつ、どのように育てるかが重要な問題である。「やらない気」、我慢をはぐくむ方法も年齢によって異なるので、幼児・小学生・中学生と三つの段階に分け、具体例を挙げて述べてみたい。

 まず、幼児期における我慢のさせ方だが、五歳の反抗的な態度が強い子を、親と連携して育てた具体例を―。

 幼稚園の庭で多くの子供たちが楽しく遊んでいるところに、元気な男の子が石を投げていた。周りの子供が「キャー、キャー」と逃げ回るのが面白くて、盛んに投げていた。

 石が当たると危険なので「危ないからやめなさい」と再三注意したが、やめようとしないので、強く注意してやめさせた。彼はいやいやながらやめたが、非常に不満といった顔でふてくされていた。

 私は彼を抱きしめて「君は石を投げたかったのだが、友達に石が当たると、けがをするかもしれないので、投げるのをやめることができた。偉い」と褒めてあげた。彼は照れくさそうに私の顔を見て、にっこり笑った。

 私は彼に「自分がやりたいことでも、人に迷惑をかけることをやめられたことは大変、素晴らしい。君はやめることができた。君が我慢できたことは大変立派なことだから、お母さんに喜んでもらいたい。私が手紙を書くから持っていってくれ」と言って、彼が帰るときに母親あての手紙を書いて持たせた。母親からさっそく電話があって、「本当に石を投げることを我慢できたのでしょうか。いつも我慢できないで困っていました。とてもうれしくなり、主人と一緒に褒めてやります」と言ってきた。

 翌朝、登園するなり、にこにこしながら私のところに来た彼は「きのうはお父さん、お母さんに我慢できて偉かったと褒められて、とてもうれしかった」と報告してきた。母親はその後、子育てについて私の所によく相談に来るようになり、親しくなった。親と教師が親しくなることは、子供にとって大きな喜びである。

 幼児期は自力で善悪の判断をすることは難しい。大人の規範によって決めることが多い。従って、善いことは褒める。悪いことはやめさせる。そして、やめることができたら、大いに褒めてあげる。このようにして幼児期の我慢がはぐくまれる。「やる気」とともに、善くないことは「やらない」という気を育てることが重要であり、それは幼児期から始める必要がある。

 次回は、小学生の我慢のさせ方について述べてみたい。












(上毛新聞 2006年5月5日掲載)