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◎相手中心を心掛けよう 桜前線は、あっという間に全国を駆け抜け、若葉の五月を迎えた。今年は例年より多く桜を見ることができたが、東京・九段の桜も、前橋公園や敷島公園の桜も美しかった。若木の花は勢いがあり、はつらつとしてみずみずしいが、老木の桜も人生に例えれば円熟味を感じさせる。今年は景気や企業業績を反映して新入社員の採用が増加したが、この時期はまた新たなスタートの時期でもある。どんな所でも、やる気とコミュニケーションはキーポイントである。 「智に働けば角が立つ。情に棹さおさせば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい」。これは、夏目漱石の『草枕』の有名な一節だ。時代は変わりつつあるが、変化が激しくなり複雑化するほど人間関係は重要になり、いつの時代もコミュニケーションは大切である。これと似た言葉に「カンパニー」「コミュニティー」など、「com」のつくものがあるが、これはラテン語に由来し、英語の「with」(共に)と同じ意味だそうだ。 「共に分かち合う」のがコミュニケーションである。相手に気を配る話し方と相手の考えを理解し、相互の存在を認めながら信頼関係を築き上げる、そんなコミュニケーションを目指したい。野球のキャッチボールも、いかに相手が捕りやすく投げるかが基本で、そこに信頼が生まれる。ある調査では会社選択の際、最も重視するポイントのトップに「オープン・コミュニケーション」を挙げている。どんな組織においても人材の確保のためには、「お金」の施策よりも、この点を見直すことが必要だろう。 またコミュニケーションは、「質より量」である。その結果、相手を理解し、これが「多様性」(自分と異なる考え、やり方)を認めることにつながる。奥田碩日本経団連会長は「ダイバーシティー(多様性)が経済や社会のダイナミズムを生み、新しいライフスタイルや新市場の創造につながる。そのために必要なのは、本当の意味での共感と信頼だ」と述べている。 四月十四日付の上毛新聞に掲載された「学力世界一の国から・フィンランドの試み(上)」に大いに共鳴した。ご覧になった方も多いと思う。学力トップのフィンランドと日本との差は何か。「教師の最も大切な資質は、子どもとうまく接する力があるかどうか」「教師は国民のろうそく、暗闇を照らして人を導く」「日本との違いは、学力より人物を重視、適性ある人を探す」「知識より自分の考えを語れる人を選ぶ」。これらは、どの組織にも共通する「原点」であり、コミュニケーションの力は欠かせない。 話し方として本県の人の言葉はきつい、としばしば耳にする。県外で生活してみると、そう思うことがある。「依頼」を「命令」に感じることもある。私も今まで随分嫌な思いを与えたのではないか、と反省している。相手に気を配る話し方や「自分中心」でなく「相手中心」の視点を心掛けたら、もっと素晴らしいだろう。世界は広い。言葉づかいやものの言い方で、その人が判断される。言葉は言霊であることを忘れないようにしたい。 (上毛新聞 2006年5月3日掲載) |