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◎確保と情報公開を チェルノブイリ原子力発電所の爆発事故から、きょう二十六日で二十年を迎えた。事故の一報を聞いた時、私は生後二カ月の長女の行く末を案じ、妻に「窓を閉め、当面外出を避けるように」と言った。実際、事故による死の灰(放射性物質)は、八千キロ離れた日本にも一週間後に到達し、雨とともに大地に降り注いだ。 長女は今年成人式を迎えたが、ウクライナ等の汚染地域では、がんや白血病等で多くの子供たちが亡くなっている。一九九五年に国連人道援護局がまとめた報告書によれば、復旧作業に携わった約八十万人が肺がんや白血病等の危険性にさらされており、ベラルーシでは事故前に比べ、小児甲状腺がんの手術件数が七十倍に増えたという。 私は、日本人ジャーナリストとして初めて被災地を取材した広河隆一氏から、その惨状を知らされた。「現地では医薬品や検査機器が不足し、助かるはずの子供たちまで命を落としている。募金で購入して届けたい」という広河氏に呼応して、九二年に前橋西武で「チェルノブイリ写真展」を開催した。三日間で五千人以上が来場し、約二十万円の募金が集まった。その後も高崎、太田などで開催し、募金は「チェルノブイリ子ども基金」を通じて被災地の救援に充てられた。 「ソ連と日本の原発は型が違うから大丈夫」とも言われたが、日本でも事故が相次いだ。福島第二原発3号機再循環ポンプ破損事故(八九年)、美浜原発2号機蒸気発生器細管破断事故(九一年)、高速増殖炉もんじゅナトリウム漏れ事故(九五年)、ジェー・シー・オー臨界事故(九九年、死者二人)、美浜原発3号機配管破断事故(二〇〇四年、死者五人)などが主なものである。また、〇二年には東京電力による事故隠し・検査データねつ造問題が発覚、〇三年四月には東電の原発十七基すべてが一時運転を停止した。 つい最近、原子力をめぐる大きな動きが相次いだ。金沢地裁で志賀原発2号機の運転差し止め判決(三月二十四日)、玄海原発3号機のプルサーマル計画地元同意(同二十六日)、使用済み核燃料再処理工場試運転開始(同三十一日)である。判決は原発の耐震性に疑問を投げかけた。現に国も耐震指針見直しを進めており、すべての原発の耐震性を新指針に基づいて調べる方針という。再処理工場では、試運転開始早々にプルトニウムを含む洗浄水の漏えい事故が発生している。 本県に原発はないが、核燃料は関越および東北自動車道を使って運搬されている。万一、輸送事故が起きれば、沿線住民が被ばくする恐れがある。また、消火活動に当たる沿線自治体の消防でさえ、専用防護服の配備は不十分である。 原油高や地球温暖化を原発への“追い風”と受け止める向きもあるが、再処理や高レベル廃棄物貯蔵に要するコストとエネルギーを正確に試算した上で論じるべきである。また、余剰プルトニウム問題は海外からも懸念されている。「見切り発車」と「隠ぺい体質」が繰り返される日本の原子力。徹底した安全確保と情報公開を望みたい。 (上毛新聞 2006年4月26日掲載) |