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県立女子大学長 富岡 賢治さん(東京都中野区)

【略歴】高崎市出身。東大卒。文部省初等中等教育局審議官、生涯学習局長、国立教育研究所長を歴任。03年1月から現職。青少年野外教育財団会長なども務める。

子供の心を鍛える


◎自然体験活動が最適

 今の子供たちには自然の中で遊び、生活し、さまざまな体験活動をする機会を与えることが大切だ。

 国の研究成果でも、このような自然体験活動をたくさんする子供ほど、お年寄りを大事にしたり、弱い者いじめをする子をやめさせたりするというモラルの高い行動をとることが、データとして示されている。自然体験活動は、子供たちの心に豊かな好影響を及ぼすのだ。

 子供たちに自然体験活動の機会を与えるのは、かつては学校の先生か、地域の面倒見のよいおじさんの役割と決まっていたが、今や全国に指導者やグループ、団体ができ、多数の青年たちがボランティアとして活動するようになった。三十年前、文部省(現文部科学省)が小中学生を山や海の施設に宿泊させ、一週間、自然の中で普通の授業を行う自然教室推進事業というのを施策化した。よい事業だったので全国で行われるようになったが、その後、みんな一泊二日の日程に落ちてしまった。

 一週間も山の家にいるのは学校の先生たちに負担が大き過ぎたことが、そうなってしまった原因の一つであった。ボランティアの青年たちの活動に光が当てられていなかったため、学校と先生に任せることしか私たちには考えられなかったことに問題があった。

 そして、もう一つの問題は施策が早かったということであった。今の時代なら、このような施策は全国の親からの支持が得られたであろうが、当時では早過ぎたのだ。今は違う。金をかけてでも子供を自然の中で育て、心を鍛えさせたいと思う親が大変多くなった。都市部の子供を全国の自然豊かな土地で鍛える、さまざまなプログラムがたくさん行われるようになった。

 そこで三年前、私は若い指導者の協力を得て、さらに先端的な自然体験活動を企画した。日本の子供を東南アジアに連れていき、現地の農業を体験させるツアーを実施した。親の負担で行くのだ。当初は催行人数に達しないだろうと思っていたが、違った。日本の若い親は子供に炎天下の地で農業体験をさせ、鍛えるためにお金を出すようになったのだ。既に三年間実施してきたが、毎回二十人の小中学生がタイ国の農家に泊まり込んで猛暑の中、貴重な経験を積んだ。

 そのうちに不思議なことが起こった。首都バンコクの学校の親たちが、自分の子供も自分の国の農業を知らない。一緒に行こう―ということになり、彼らもバスを連ねて田舎の農家に日本人の子供たちと一緒に泊まるようになった。さらに、タイの親たちは自分たちの負担で日本の農業や生活体験を子供にさせたいと言い出し、昨年から二十人のタイの子供たちが日本の田舎に泊まりに来るようになった。小規模だが、立派な子供の国際交流事業になってきた。

 親は国を問わず、子供を鍛えるために汗を惜しまない。親の希望に応えるには、工夫と多少の努力があれば随分違うのだ。自然体験活動は最適の手段の一つである。














(上毛新聞 2006年4月25日掲載)