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司法書士 樋口 正洋さん(太田市浜町)

【略歴】明治大卒。司法書士。群馬司法書士会理事。東上州三十三観音霊場会会長。太田中央ライオンズクラブ前幹事。群馬法律学校元講師。東京地方検察庁元事務官。

会社法施行


◎実態を把握して取引を

 「資本金一円でも株式会社が設立できるのか」「似たような商号でも使用してよいのか」。最近、会社の設立や変更に関して、さまざまな質問を受ける。五月から新たに会社法が施行されるからである。この会社法は最近の社会経済の情勢にかんがみ、従来、商法の会社編に定められていた条文を国民に理解しやすいように改正し、新たな単独法として制定したものである。

 新たに会社法が施行されることによって、これからの会社制度はどのように変化するであろうか。この新法の趣旨は、会社の実態と法律の規制内容を一致させることにある。会社法は、従来の有限会社法に規定されていた条文を、株式会社にも認めようとしたものである。すなわち、従来存在していた株式会社と有限会社とを一体化させ、「株式会社」としている。従って、これからは原則として株式会社しか認められなくなる。

 資本金に関しては、その下限額を設けず、一円でも設立を可能にしている。また、取締役会も任意機関となり、それを設置しない場合、取締役の数は一人以上でよいことになる。さらに、株式の譲渡制限を設けている会社では、取締役の任期は、定款で定めれば最長十年まで延長することができる。さらに、前述の株式譲渡制限のある会社では、監査役の選任も任意となり、任期も取締役と同様、最長十年までとなる。

 そのうえ、従来、存在していた類似商号の制限がなくなる。従って、似たような商号の会社でも設立や存続ができるようになる。ただし、同一の本店所在地に同一の商号の会社があるという同一商号の登記は、従来どおり禁止されている。

 一方、従来の有限会社はどうなるのか。それは「株式会社」としてそのまま存続する。会社法は、これを特例有限会社と呼んでいる。この特例有限会社は、株式会社の文字を使用するという定款変更をすることで、株式会社へ移行が容易にできるようになっている。また、前述したように、有限会社を新たに設立することはできなくなる。

 では、新法の施行を契機に、変更などの登記申請手続きを新たにする必要があるのか。ほとんどの会社については、登記申請をする必要はない。必要な登記の大部分を登記官が職権で行うからである。言い換えれば、会社法が施行されても、会社は原則として登記申請をする必要はないのである。

 このように、会社法が施行されると、従来考えられていた会社の実態が著しく変わる。誰でもが容易に設立できるようになり、取締役等の役員も簡素化される。一方、税理士などが計算書類を作成する会計参与の制度が認められているため、計算書類の信用性が向上し、会社自体の信用が重要視されるようになる。

 従って、これから新法の下で会社と取引関係に入る相手方は、資本金の額等の形式的判断だけでなく、会社の実態を登記事項証明書などで十分把握し、その会社の経営内容を細部まで理解する必要が出てくるのである。












(上毛新聞 2006年4月22日掲載)