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◎創作の喜びを体験して 私たちの月刊俳句雑誌『絹』には、「天蚕集」という児童生徒や学生の作品発表欄がある。始めたのは創刊して二年目の平成十二年十二月号であるから、満五年を過ぎたことになる。初めは会員の子女や孫が中心で、投句者はわずか数人で一ページにも満たなかったが、現在は百人近くなり、三ページを埋め尽くすようになった。 ちなみに三月号の投句者をのぞいてみると、富岡市内はもとより県内各地、そして埼玉、東京へと地域が広がり、年代は保育園児から高校生までと幅広い仲間の名前が連なっている。 今、俳句界では高齢化による会員の減少で、解散に追い込まれる結社が続出している。これは、俳句界に限ったことではなく、詩や短歌、小説等の結社や同人誌も同様で、他のジャンルの書道や絵画の世界でも、高齢化の波が押し寄せ、悩みは深刻なようである。 私は句誌『絹』を創刊したとき、師の唱えた崇高な俳句の文学精神を継承し、後世にしっかり伝えていきたいと仲間に約束した。 読書よりテレビ、ぺンよりもパソコン、世の流れは活字離れを助長、大方の若者はいつしか文字を書いての「創作」の機会を失ってしまったのである。教科書で学んでも俳句の本当の素晴らしさは分からず、興味はわかない。このままでは後世に伝えるどころか俳句の存続すらおぼつかない。とにかく若者の目を俳句に向けさせることが先決である。 そこで、私は自分から乗り出すことにした。手始めに夏休みを利用して無料の「親子俳句教室」を開校した。市の教育委員会と校長会にお願いし、市内の小、中学校全校に呼び掛けていただいた。予想に反して応じてくれたのは、たった六組の母子であった。でも、私はうれしかった。教育委員会と校長会の皆さんに感謝しながら真剣に取り組んだ。自然の偉大さと美しさ。他人をいたわる心の大切さなどを説きながら、実作に入った。 自分の感動を五七五音にまとめるのは容易ではない。まして季節感も入れなければならない。私は庭の花や、畑で取れたトマトやキュウリを持参して、バラの花をかがせたり、とげに触れさせたり、トマトはなぜ赤くなるのかなどと、深く物を見ることを勧め、一緒に句を作った。 お母さん方も児童たちも少しずつ目に輝きが生まれ、自作が添削で素晴らしい句に生まれ変わると、言葉の魅力を肌で感じたようで、次の教室が待ち遠しいと言うようになった。味わったことのない「創作の喜び」が体験できたのであろう。この俳句教室で生まれた全員の作品を「天蚕集」に載せ、記念に差し上げた。 この教室を機に、下仁田町の保育園、富岡市内の小中学校、富岡准看護学校、県立県民健康科学大学などからお招きを受け、若人に俳句の魅力と創作の喜びを体験してもらう場を与えていただくことになった。「天蚕集」はこうした若者の作品発表の場であり、俳句界が高齢化から脱する種まきの圃場(ほじょう)であると思い、投句者全員に『絹』を差し上げている。 (上毛新聞 2006年4月9日掲載) |