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内閣府参事官 小暮 純也さん(埼玉県草加市)

【略歴】伊勢崎市出身。前橋高、東大法学部卒。80年自治省入省。総務省地域放送課長、財団法人市町村アカデミー研修部長などを経て、昨年8月から現職。


「個人情報保護」の誤解

◎遅らすな災害避難支援

 近年、集中豪雨や台風などでの災害被害は、高齢者等の占める割合が高くなっています。高齢者・障害者等の災害時要援護者の避難支援のためには、福祉部局等が持っている情報を、防災部局などの支援する関係機関等で共有すること(例えば、災害時要援護者リストの作成など)がまず必要になります。ところが、個人情報保護を理由に、福祉部局と防災部局等との情報の共有ができず、災害時要援護者対策が進まないとの声も聞かれるところです。でも進まないのは、個人情報保護法制の誤解も一因ではないのでしょうか。

 <個人情報保護法は個人情報の利用禁止法?>

 個人情報保護法の目的は「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護すること」とされています。個人情報の保護のみを唯一の目的としているわけではなく、個人情報の有効・適切な利用も目的に含まれています。当然、利用禁止法であるわけがありません。要は、個人情報の保護と利用のバランスを取ることが大事であるとされているのです。

 <地方公共団体が保有する個人情報の取り扱いも個人情報保護法で決まっている?>

 個人情報保護法は、個人情報保護に関する基本法的部分もありますが、個人情報の取り扱いについては、民間部門の義務等を定めています。行政部門の個人情報の取り扱いに関しては、国の行政機関は行政機関個人情報保護法で、地方公共団体は各団体の個人情報保護条例で、それぞれ定められています。従って、福祉部門が持っている災害時要援護者の情報の取り扱いは、その市町村の個人情報保護条例に従うことになります。そして、条例の解釈・運用の参考にすべき法律は、民間部門の取り扱いを定めた個人情報保護法ではなく、行政機関個人情報保護法ということになります。

 <個人情報は本人の同意がないと一切提供できない?>

 個人情報の目的外利用・提供は原則制限されますが、本人の同意がなくとも、本人や公共の利益の増進につながる一定の場合などに例外が認められています。行政機関個人情報保護法では「本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき」などが認められています。災害時要援護者の情報を避難支援する関係機関に提供することは、本人の生命・安全を守ることであり、まさにこれに該当すると思います。

 市町村の条例には行政機関個人情報保護法と同様の規定があるものもありますが、同様の規定がない条例でも「個人情報保護審議会の意見を聴いて特別な理由があると認められるときは提供を認める」旨の規定はあるので、それに基づき避難支援する関係機関に情報提供が可能です。本人の同意がなくとも、条例に基づき情報提供が可能なわけです。

 個人情報保護を理由(言い訳?)に、誤解(事なかれ主義?)から災害時要援護者の避難支援対策が遅れることがあってはならないと思います。なお、内閣府では、個人情報保護上も問題がない具体的な取り組み方策を示した「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」をホームページで公表していますので、関心のある方はぜひご覧ください。




(上毛新聞 2006年4月5日掲載)