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◎働き続けられる基盤を 私は病院薬剤師として働きながら、いくつかの患者会のお手伝いをしています。先日、そうした集まりで患者さんのお話を聞く機会がありました。大学一年生のお嬢さんの話が印象に残りました。「高校を卒業して就職すべきところ、社会に出る前に四年間の猶予をもらって大学に進学できた。働くことの意味を一年かけて学んだ」という内容でした。この方の疾患では妊娠出産が難しいことが多く、本人も親御さんも社会人として自立することを真剣に考えていると感じました。 女性やハンディキャップのある人が、働き続けられる社会であることは重要です。実は私の母も薬剤師として定年まで県内の病院で働いていました。実務に関して母から教えを受ける機会はありませんでしたが、働き続けることの大切さは折に触れ、教えられました。 現実には、子育てと仕事のバランスをいかに取るかが日常の大きな悩み事です。価値観はさまざまですから、すべての母親が社会で働くべきと主張するつもりはありません。しかし、出産や子育ての体験はわれわれのような職種でも仕事に生かすことができるのです。 毎年、病院実習の学生さんをお預かりしています。その折には男女の別なく「大学教育で受けた恩恵を社会のために役立ててほしい」と話しています。社会悪といった難しい言葉を使って、心構えを考えてもらう場合もあります。働くことの権利や意義、働けることの喜びを見いだせるよう、いかに導いていくか、若い世代と共に悩む今日このごろです。 「つる舞う形の群馬県」と群馬の紹介をすると、私の顔を見て「かかあ天下と空っ風」と言われます。上毛かるたに「かかあ天下」はないと説明すると不思議がられます。桑を育て繭を得、糸を紡ぎ機を織る織物工業の過程には「かかあ」の存在が重要です。しかし、そこに込められているのは揶揄(やゆ)でなく、大切な働き手としての女性の評価であると解説しています。 今日の日本で取りざたされる少子化には、女性の労働条件にかかわる問題が多く潜んでいると考えます。安心して子どもを産み育てるには、女性がしなやかに働き続けられる基盤が必須です。根気のいる手作業で、群馬の産業をはぐくんだ先人の技により、地道な仕事の積み重ねが華やかな金襴緞子(きんらんどんす)へ変ぼうします。群馬の女性には、日本の将来をドラスチックに変える牽引(けんいん)力があるのではと、大きな期待を寄せています。「子どもを育てるなら群馬県」。このキャッチフレーズに大賛成です。 どのように働くべきかを真面目(まじめ)に考えることは、男女と社会の問題です。男性の働き方も見直されています。働くことは個々人の意識の問題であるため、生涯を通しての教育も大事でしょう。女性に活躍の場が整えられることで、出生率が上昇する諸外国の例が新聞でも紹介されています。皆で知恵と能力を寄せ合い、若い人たちが目を輝かせて働ける、他県に誇れる社会が築かれることを望みます。 (上毛新聞 2006年3月24日掲載) |