視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
市立伊勢崎高校PTA会長 吉田 洋子さん(伊勢崎市曲沢町)

【略歴】足利市出身。旧赤堀町曲沢に嫁ぎ、2男1女の親。県精神医療センターに勤める。今年で25年目。社会生活技能訓練リーダー。

忘れられない卒業式


◎子供を信じ見守りたい

 卒業式の時期になると、いつも心が熱くなる。三年前、私と息子は一生忘れることのできない卒業式を校長室で行ってもらった。

 三月二十六日、ほかの生徒さんよりかなり遅れた卒業式に、半信半疑で高校へ車を走らせた。いつもの太いぼろぼろのズボンではなく、入学式にはいたすっきりしたズボンにネクタイをし、髪の毛も黒く染めた。校長室に入ると、真ん中に日の丸が掲げられ、生花も置かれていた。校長先生はタキシード姿。ほかの先生方も正装で出迎えてくれた。私たち二人は、驚きのあまり立ちつくした。

 卒業証書の授与式が行われ、先生方一人一人の祝辞をいただき、歌も歌ってくれた。息子は目を閉じ、時々、先生方の顔をじっと見詰めていた。涙ながらにお礼の言葉を言い、私にも「ありがとう」と言ってくれた。卒業証書の日付は三月一日。涙が流れ出た。

 高校二年のころから何かと悪さをし、目立ち始めた。学校から呼び出しの電話があると、今度は何をしたのだろうとビクビクした。夜になると出歩き、遅くに帰り、学校に通っているのか何をしているのか、不安の毎日だった。何を言っても聞き入れず、怒鳴り散らす。そんな息子だった。

 悪いレッテルを張られると、信用もなくなる。ある日、学校から呼び出しがあり、父親が行った。お金がなくなったとのこと。父親はすぐに「家では、どこにお金を置いても、なくなったことはない。おれは子供を信じる」と言った。息子はこのころから変わった。表情も明るくなり、学校にも楽しそうに通い始めた。

 ところが、卒業も間近い二月の中ごろ、警察から電話があった。親子で来署してほしいとのこと。脅しをかけたと訴えられたのだ。初めての取調室。息子は脅していないと言い続けた。私は信じた。一夜明け、容疑は晴れた。友達が証言してくれたのだ。

 警察の態度は一変した。だが、最後に家庭裁判所で調停を受けるとのこと。初めての裁判所。「二度とこの件で連絡をすることはありません。ご苦労さまでした」と裁判官。その笑顔を見て足がガクガクし、力が抜けてうまく立てなかった。すぐに高校から連絡が入り、卒業式となった。

 私は、夫が子供を信じたこと、息子も耐えてくれたことがうれしかった。そして、先生方の励ましの言葉、特に担任の先生は説教までしてくれ、常に親身になって面倒をみてくれた。謹慎中、校長先生が一緒に清掃してくれたり、弁当を食べてくれたこともありがたかった。最後まであきらめなかったこと、信じたことがよかったと思う。今では時々、家族と思い出話ができるようになった。その息子は今、父親の仕事と同じ大工修業に頑張っている。

 親が子供をあきらめず、見守り、ぶつかっていくことが大切だと思う。子供も、もっと親に甘えてもよいのではないか。子供は親にとって、いつでも、どこでも、いくつになってもかわいい子供なのである。

(上毛新聞 2006年3月1日掲載)