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◎はぐくみの心持ちたい 「三つ子の魂百まで」という諺(ことわざ)がある。このことは、幼児期の習慣形成は長い一生のスタートで、幼児期の子育ての重要性を言っている。妊婦が火事の現場を見ると、「あざ」のある子ができるという言い伝えもある。これは妊婦が情緒不安定になると、赤ちゃんの情緒の発達に影響があるという教えである。 六、七カ月の妊婦が気分のよい時と悪い時では、気分のよい時の方が、胎児の動きは活発である。こうした言葉からも胎教の重要性がわかる。父親の役割は、母親である妊婦をイライラさせないようにすることである。 幼児心理学の山下俊郎氏は「つきたての餅(もち)がだんだん冷えて、途中でどのように扱われるかによって、丸くも、四角にもなる。幼児期の成長は非常に早い」と幼児期における親子のかかわり方の重要性を述べている。 親が厳しすぎると、反抗的、攻撃的になり、甘やかしすぎると依頼心が強く、自立心が育たない。放任の場合、しなければならないことはやらないで、好きなことに走る傾向が生じやすい。親と子の確かなかかわり方は子供の育つ力を見極めて、はぐくみの心を持って育てることである。子供の育つ力を見極めるためには、子供の日常生活の様子をよく観察することである。 具体例を述べてみる。私の家では息子夫婦が共働きだったので、妻が昼間、孫の世話をしていた。乳幼児を置いて勤めに出る親は、わが子の一日の生活の様子が心配と思い、妻は孫の食事、睡眠、排せつ、着替え、手洗いなど一日の生活を大学ノートに丹念にメモし、母親に報告した。 メモすることにより、子供の生活の様子が明確になり、次はどのように育てたらよいか、できないことはさせない、できるようになったことは自力でさせる―という方向付けに効果があった。小学校に入学するまでメモしたので、ノートは五冊になった。 孫二人の成長の記録は、成人するまで大切に保管されていた。上の女の子の結婚式に「おばあちゃんの贈り物」として育児日記を手渡した。下の男の子にも結婚する時に贈るつもりである。私たち夫婦は、孫たちが成人してから四人で話したことがあった。そのとき、孫たちは「小さいころ、おばあちゃんに本当に世話になった。夕方になると泣いて困らせた」などと話し、心から感謝していた。妻はぐっと胸につまるものがあったようで、涙ぐんで喜んでいた。 妻は一昨年になって闘病生活に入り、昨年五月四日に亡くなった。何事も一生懸命生きた人である。妻が孫たちの健やかな成長を願って誠心誠意書いた「育児日記」は不滅である。孫たちの心に深く刻み込まれるだろう。 (上毛新聞 2006年2月28日掲載) |