視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
弁護士 小林 宣雄さん(前橋市荒牧町)

【略歴】沼田高、中央大法学部卒。54年司法試験合格。58年から地裁判事を務め、83年前橋地裁の裁判長就任。90年依願退官。群馬公証人会会長。02年から弁護士。

遺言


◎骨肉の争い未然に防ぐ

 「遺言」というと、何か抹香臭さを連想して敬遠する人もいる。が、そんな人たちでも、自分の死亡保険の件となると、さしたる抵抗感もなく加入して、保険金受取人を指定する向きが少なくない。自分の亡き後に残る家族等のうちの誰かに相応な財産を与えようという点では、遺言も死亡保険も類似した一面があるように思われるのだが…。

 さて、現行の相続法(民法)は、周知のように法定共同相続制を採り、親子、配偶者、兄弟姉妹等の相続順位と相続割合をいろいろなケースを想定して、かなり細かく規定している。こうした法定相続制はもちろん、それなりのメリットをもっている。

 だが、まずこの法定相続割合についてみると、相続人の中には家業を継ぐ子とそうでない子、そのほか十人十色。そのような人たちが一律に法定相続分にありつけるというのでは、被相続人にとって実質的不平等の気持ちを抱かざるを得ない場合もあろう。

 また、法律は法定相続人間の相続割合を決めているだけで、具体的に誰が何(例えば不動産、預貯金等)をどのように相続するかについては何も決めておらず、相続人間の遺産分割協議に委ねている。だが、「泣く泣くもいい方を取る形見分け」と古川柳にもあるように、この協議をめぐって骨肉の争いを生じることも少なくない。

 人は本来、自分の財産は自分で自由に処分できるはず。自分の死後、その財産を誰にどのように分かち与えるかを、あらかじめ生存中に決めておくことができてもよい筋合いだ。そして、この筋合いを実現できるのが「遺言」にほかならない。つまり、人(被相続人)が何も言い残さないで死亡すれば、いわゆる法定相続を開始するが、遺言があれば、それか法定相続規定に優先することになる。遺言には、遺産相続に伴う骨肉の争いも未然に防止し得る効用がある。法定相続人以外の人に財産を残すこともできる。

 また、遺言は、当の遺言者が死亡するまでは遺言としての本来の効力は生じない。だから、その間、遺言者は自分の財産を遺言の趣旨に反してでも自由、勝手に処分することもできるし、いつでも従前の遺言を撤回、変更することもできる。ただ、遺言も絶対、万能というわけではなく、当の相続人の法定相続分の二分の一(遺留分)を侵害できないことになっているから、この点留意する必要がある。

 ところで、遺言は必ず書面によってしなければならないとされており、その方法は自筆遺言と公正証書遺言に大別される。自筆遺言は、遺言者が必ず内容と作成年月日を手書きして署名、押印することが必要。後日、家庭裁判所の検認を経て初めて遺言として有効となる。公正証書遺言は、遺言者が公証人の面前で遺言内容を口述し、公証人がその公正証書を作成することによって有効に成立する。詳しい手続きは関係官署に聞けばよい。

(上毛新聞 2006年2月24日掲載)