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富岡総合病院長 柴山 勝太郎さん(高崎市竜見町)

【略歴】群馬大医学部卒。同学部附属病院助手(泌尿器科)、富岡厚生病院医長、同学部助教授を経て91年から富岡総合病院長、02年から県病院協会長。

小児医療の課題


◎1次救急体制の整備を

 二年前に新医師臨床研修制度がスタートして以来、大学から派遣されていた医師の引き上げによって、全国各地の基幹病院は深刻な医師不足に見舞われた。本県においても例外ではなく、特に病院の小児科、産科医師の不足はマスコミでも大きく取り上げられた。

 わが国では小児人口十万人当たりの小児科医数は七九・九人であり、米国の五六・六人と比べて決して少なくない(厚生労働省)。一方、病院では少子化の影響で小児の入院患者が年々減少し、不採算を理由に小児科の診療を廃止する病院も相次いでいる。そのため病院に勤務する小児科医の数は減少を続けているが、普段の診療を行う上で小児科医がそれほど不足しているわけではない。

 先般、国がまとめた報告書では、病院の小児科医の「不足」を「偏在」と位置づけ、その対策として小児科部門を持つ病院の集約化・重点化を図ること、および小児の一次救急については診療所を主体に休日・夜間急患センターなどを活用することを勧めている。

 さて、救急医療は医療の原点であり、地域住民が寄せる期待は大きいが、最近、医師の一部には救急医療を「余分な仕事」と考える傾向があり、これが病院における医師離職の理由にもなっている。特に小児科については内科や外科系に比べて医師の絶対数が少ないので、少数でも小児科医の離職は影響が大きい。

 わが国で一般病院の小児科医は平均二・五人である。当院では小児科医は昨年まで四人であったが、現在は三人である。当院だけでは三百六十五日の二次救急に対応できないので、西毛の五病院と輪番制を組んでいる。当番日には普段の二―三倍の救急患者であるが、休・祭日の当番日には六十人前後の小児救急患者が受診する。現在、輪番制を組んでいる五病院の小児科医の数は十三人である。

 人口五十万人余の地域で十三人の小児科医が三百六十五日二次救急患者を診なければならない現状はそれだけでも過重な負担であるが、さらに、小児科医は同時に受診する軽症の一次救急患者の診療に体力と気力をすり減らしている。このような状態を放置すれば、病院に勤務する小児科医の離職は後を絶たず、西毛の小児医療体制の全面的な崩壊を招く恐れがある。

 一般に救急医療は外来で済む一次救急と入院が必要な二次救急に分かれる。特に小児の場合には軽症が多いので、一次救急患者の数が多くなる。今、崩壊の瀬戸際にある小児医療体制を立て直すために、まず必要なことは小児医療の一次救急体制を整備することであり、これによって病院に勤務する小児科医の過重な負担を軽減することである。

 それには小児科の個人診療所が主体になるので、地域医師会の協力が欠かせない。来年度の県予算および診療報酬改正でも小児医療については配慮がされるようであるが、強力なインセンティブの下に休日・夜間急患センターにおける小児一次救急診療体制の整備を促進するため、関係機関のさらなる財政的支援が望まれる。

(上毛新聞 2006年2月22日掲載)