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◎句誌との距離を縮める 三年前の五月号より、私たちの俳句会では月刊俳句雑誌『絹』をテープに吹き込んで「声の絹」を作製、視覚に障害のある会員に贈呈している。これは『絹』の創刊五周年を記念して始められたもので、対象となる十二人の仲間に大変喜ばれている。 発端は、編集員の一人が視覚に障害がある友人に自分で吹き込んだテープを差し上げるという、一個人の好意から始まったものである。 このテープをいただいた会員は、全盲という障害を克服して自分の手でダビングし、数人の仲間に送っていた。この一連の話を聞いたとき、編集員と会員のその行動の素晴らしさに感動してしまった。そして、この美しい行動の輪をもっともっと大きく、確かなものにしたいと考えた。 どんなに立派な行いでも、一人には限界がある。どちらかが病気で倒れたら、やむを得ず中断となるだろう。そこで、しっかりした組織をつくるため、会員に呼びかけて有志を募った。仲間の中にはいろいろな人がいた。朗読奉仕で市の広報紙などをテープに吹き込んでいる人。若き日にアナウンサーにあこがれたという人。声には自信がないが、ダビングのお手伝いをしたいという人。呼びかけに十数人が手を挙げ、集まってくれたのである。 間違いなく読めるように仮名をふる係。吹き込みをする係は一年間のローテーションを組んで対応。ダビング係は二人で毎月素早くしてくれる。こうして「声の絹」は開始して間もなく三年になるが、毎月、本体の俳句雑誌『絹』と同時に発送されている。これらはすべてボランティアである。 俳句雑誌の中から、九十分のテープに収められる文章と俳句作品等を選択しているが、これは雑誌のページ数が少ないからできることで、小誌には小誌の良いところがあると、あらためて満足している。 全国には、毎月数百の俳句雑誌が発行されているが、ボランティアの手によってテープに吹き込まれ、障害のある会員に届けられるという俳句雑誌はまれなことだろう。 仲間の好意の結晶で誕生したテープによる「絹の声」は、自らが手に取って読むことのできない、視覚に障害のある会員と雑誌の距離を一気に縮めたばかりでなく、障害者と健常者の信頼関係を濃密にしてくれた。健常者には、純粋な奉仕といたわりの精神が堅固となり、障害者には感謝の心と健常者との連帯感がより強まったのではないかと思っている。その証左は、テープが届くと、お礼の電話や作品の感想の手紙などが、数多く発行所に寄せられるようになったことである。 一巻のテープは、健常者と障害者の目には見えない、高くて厚い壁をとり払ってくれた。そのテープを通して研さんしている会員の素晴しい作品を二句紹介したい。 失明のまなこの中に花明 り 折茂昭 眼裏を大空にせる花火音 同 (上毛新聞 2006年2月16日掲載) |