視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
群馬大学教育学部助教授 西薗 大実さん(桐生市東)

【略歴】東京都出身。東京理科大大学院修了。薬学博士。専門は家政学と環境。現在は国や県が設置する環境関連の複数の審議会で委員を務める。

フロン回収


◎群馬モデルを広げよう

 温室効果ガスの排出削減について、京都議定書による6%削減の先まで見越した長期的削減の仕組みづくりが望まれる。では、その長期的な目標とは、どのくらいだろうか。現在、人為的な温室効果ガス排出量は、世界で年間約二百五十億トンに上る。気候を安定させ人類が生き残るには、向こう百年でその六割の削減が必要といわれる。

 クールビズ、ウォームビズでの冷暖房調節や、こまめな電気や水の節約といった身近な削減も重要だが、それだけで長期目標は達成できない。社会のインフラ整備の際には、常に温室効果ガスの削減を念頭に置いて行うべきである。

 例えば最近、耐震強度偽装で揺れるマンションやホテル、オフィスなどのビルではどうだろう。ビルのコンクリート壁の内部には、鉄骨ばかりではなく、熱の出入りを遮断する断熱材がたっぷり詰まっている。その代表がウレタンフォームだが、その施工には長年、フロンが発泡剤として用いられてきた。フロンはCO2の千倍を超える強力な温室効果ガスであり、いったん建物の断熱材に使えば、徐々に放出されて、向こう数十年にわたって環境に負荷を与え続けることになる。

 ところが最近、フロンを使わない断熱材が実用化され、マンション開発業者の中には、今後つくるマンションをすべてノンフロン断熱材にすると宣言するところが出てきた。表から分からないからといって、鉄骨を間引く者があるかと思えば、一方では未来を考えた技術導入を積極的に進める事業者もいる。

 もうひとつのフロン、ルームエアコンなどに使われている冷媒フロンはどうだろうか。こちらの方は、決定的なノンフロン技術がない。当面はスーパーの冷凍ショーケースなどと合わせて、フロンのお世話になる時代が続く。

 そうなると、フロンを排出しない方策が重要である。現在は、法律でフロン排出禁止が定められており、回収技術を有する「フロン回収業者」が県に登録されている。しかし、ビル建て替えやエアコン廃棄の際に、回収業者に情報が届かず、残念ながら排出されてしまう事例も多い。建物オーナーの責任は重いが、一般には専門的知識を持たぬことも多いので、フロン回収について情報提供したり、回収業者に取り次ぐ者が必要である。多くの場合、建設業者がその役目を果たすことができるだろう。

 もとより、フロン回収の仕組みにおいて、本県は全国トップとの評価を、国や業界から得ている。県ともコミュニケーションをとりながら、さらに関連業界の連携を推し進め、このモデルを群馬発で全国に、さらには中国など海外にも伝え広げていく。そんな仕組みづくりが、未来のために重要なのである。

(上毛新聞 2006年2月2日掲載)