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◎小さな積み重ねが大切 近年の経済不況や少子高齢化により、医療制度の改革が必要といわれています。患者さんの負担増や医薬品費節減が医療費抑制のために検討されています。同時に「生活習慣病の予防を国民運動に」といった予防的取り組みが現在の課題となっています。糖尿病についても「糖尿病対策推進会議」を設け、発症と合併症予防キャンペーンが実施されています。 食糧難の時代には「ぜいたく病」と称された糖尿病は、日本では最近五十年間で患者数が五十倍と激増し、七百四十万人が糖尿病といわれています。一方、総合病院などで診療を担当する糖尿病専門医は全国で約三千人にすぎません。看護師、栄養士、臨床検査技師、運動療法士、薬剤師などの医療職が医師と力を合わせ、糖尿病の発症予防や早期発見・治療に取り組んでいます。私も糖尿病療養指導士として薬局窓口などで患者さんの指導を担当しています。 患者さんには「糖尿病の予防や治療には薬の力に頼る前に、まず生活習慣の改善が重要」と説明します。インスリン注射が必須となる1型糖尿病は思春期に発症することが多く、原因は生活習慣ではありません。これに対し、中高年以降の糖尿病は、ほとんどが2型糖尿病と分類されます。糖尿病の発症率には人種差があり、われわれ黄色人種は2型糖尿病になりやすいのです。 このような本来の体質の上に動物性蛋白(たんぱく)・脂肪の摂取増という食生活の欧米化が患者数増加の理由とされています。しかし、糖尿病の患者数増加に相関するのは食物データよりも、自家用車所有台数の増加であるという調査結果があります。 群馬県の自家用車所有台数は日本のトップクラスを誇ります。交通手段として自家用車に頼る率が他県に比べ多いといえるでしょう。このことだけを安易に関係づけることはできませんが、運動不足と糖尿病の関連を心に留めておきましょう。 運動とはジョギングや水泳など特別なことと思われがちですが、できるだけ徒歩で通勤や買い物に出かけるという毎日の小さな積み重ねがとても大切なのです。目の前にあればエスカレーターなどを何気なく利用しがちです。実は、こうした便利さが日本人の運動不足を招いたともいえるのです。 現代の子供たちは幼少期からハンバーガーや清涼飲料水などに囲まれ養育されています。従って、この子らが成人に達するころには患者数は爆発的に増えると予想されます。こうしたことに対処するには、昔の日本家庭の食事を思い出し、スローフードと呼ばれるような手をかけた食事を家族で囲むことが勧められます。これは食べるということと同時に心を育てることにつながり、それがまさに食育といえるでしょう。 日本の未来を背負う子供たちの健康を守ることは、われわれに課せられた大きな義務です。学校検尿などに代表される青少年の糖尿病対策は大きな意味があり、糖尿病療養指導士としても母親の一人としても、より一層の努力を重ねたいと考えます。 (上毛新聞 2006年1月29日掲載) |