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元群馬町教育長 山本 幸雄さん(高崎市金古町)

【略歴】信州大卒。60年、群馬に移り旧小串中(嬬恋)の教諭生活をスタート、堤ケ岡小などで教頭に。群馬中央中の校長を退職後、群馬町教育長を2期務めた。

中高年から子供たちへ


◎山は学校であり教材

 中高年者の登山人口が広がりを見せており、春の到来を待ち望んでいる人たちも多いと思う。私もその一員である。信州安曇野で北アルプス連山と向き合って育ち、中学で燕岳、高校では白馬山登山が、夏休み中の行事として義務づけられていたことも山好きにした。

 山は四季折々のよさを出して登山者を楽しませてくれるが、時としてその厳しさは過酷でもある。体力と気力に頼りがちだった青年期の登山方法はもう通用しない。安全で楽しい登山をするために、県山岳連盟の登山講習会にも参加し、基礎から学び直した。

 昨年は春から晩秋にかけて、里山を含めて二十数カ所の山を訪れたが、どこの山にも大勢の中高年の登山者が行き交っていた。日本百名山の赤城山、谷川岳、四阿山、蓼科山等は人気が高く、また女性の登山愛好者が多いのには驚いた。交通網の整備により、マイカー等による日帰り登山が可能となり、また関係市町村が活性化対策や自然保護の立場から登山道や関連施設の整備に力を入れてきたことも、登山を一層身近なものにしているともいえる。

 あえぎながら額に汗をし、一歩一歩高度を上げるにつれて移り変わる眼下の景観、雲の切れ間から突如として姿を現す大きな山容は、圧巻で畏い敬けいの念を覚える。厳しい自然に耐え抜き、一瞬の今を咲き輝いているかれんな高山植物は疲れを癒やし、生きていることの素晴らしさや勇気を与えてくれる。山に登るたびに新しい発見や出合いがあり、自分にも素直になれる。こんな経験や思いを子供たちにもと、考えておられる人も多いのではないだろうか。

 週末の里山では子供や孫連れの中高年の登山者をよく見かけるようになってきた。「県民の日」に紅葉の岩櫃山を訪ねた時だった。山頂付近に近づくと急ににぎやかな子供たちの声が聞こえてきた。高崎市から来たという保育園児の集団が、保育士さんと女性を含む保護者四、五人にガードされながら下山する途中であった。岩場の細い坂道や鉄ばしごを身軽に下りていく園児たちが、とてもたくましく新鮮に見えた。園児たちに貴重な体験の場を与えてくださった保育士さん、それを支援した保護者たちの英断と努力に頭が下がった。

 高い山に登ることだけが登山ではない。県内には生活圏に近く、家族で登れる手ごろな美しい山々がある。山登りは健康づくりを兼ねて、自然との触れ合い方・生き方を学ぶ学習でもある。山は学校であり、教材でもあると思う。自然保護の意義や大切さを自分の目で確かめることもでき、またその実践が試される場でもある。

 子供にとって家族や友達に励まされながらも、初めて自分の足で険しい坂道や岩場を歩き、無事に登頂と下山ができた喜びは、これから生きていく上での大きな自信や意欲にもつながり、大きな財産ともなる。登山の危険のみを強調することなく、いろいろな危険も経験を通して避ける方法が身につくことも教え、支援していくことが中高年登山愛好者の務めではないかと思う。

(上毛新聞 2006年1月28日掲載)