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◎徳を積んで変化に対応 高崎市に合併した旧倉渕村には「大盃」で知られる県内最古の蔵元、牧野酒造があります。創業は一六九〇(元禄三)年で、今の社長の牧野茂実さんで十七代目です。第七十四回関東信越国税局酒類鑑評会では最優秀賞を獲得し、長野・新潟の強豪酒蔵を抑え、群馬の酒造りの評価を上げたことでも知られています。創業以来三百年以上の伝統の中で、最近では従来の清酒に加え、本格米焼酎「竹の子」の発売も始め、変化する社会で新たなエリアへ挑戦しています。 「継続することは創業するより難しい」と言われます。事業を興すのは外部との戦いですが、維持することは内部(自分)との戦いになるからでしょう。 牧野さんはこう言われています。「価格以上の品質を持ったお酒を造ること。妥協することなく、受け継いだ経験とより高い技術でおいしいと言われるお酒を造ること。そうすることによって、お客さまは買って喜んでくださるし、皆さんに勧めてくれる」 京都小売商業支援センターのホームページには「京のあきんど訓」が載っています。その一に「真の商人はさき(お客さま)も立ちわれも立つことを思うなり」とあります。また、旧群馬町の「ゆいの家」で昨年講演があり、全国まちづくりやコミュニティービジネス、人材育成の仕事を手掛けている「えにし屋」の清水義晴さんの講演「変革は、弱いとこ小さいところ遠いところから」でも共通することを話されました。 講演によりますと、長く続いている会社の経営者に「どうしてこんなに長く続いたのですか」と聞くと、どの会社でも「運がよかった」と同じことを言う。それを聞いているうちに、運がよくなる生き方があると直感したと言います。 その事由をさぐると、そういう企業は周りに徳を積んでいる。社員を大事にしている。家族を大事にしている。周りの人を大事にしている。取引先を大事にしている。それを当たり前と思い、徳を積んでやっていると思っていない。ですからこの企業が困った時に手を差し伸べようと思っている人がいっぱいいるし、助け、応援してくれる。本人は徳を積んでやっていると思っていないから「運がいい」と思っている。それともう一つは、常に絶えざる革新をしている―とのお話でした。 老舗と呼ばれるお店は、お金という価値判断以上の物を製造・販売し、周囲に徳を積み、時代の変化に対応できる店といえます。 一昨年、奈良県出身の吉森健二君が旧倉渕村水沼に倉渕パン工房「湧然」を創業しました。新しい視点で事業に取り組み、地域の食材にこだわった天然酵母のパンづくりをしています。一方、牧野酒造十八代目、牧野顕二郎君は蔵人として酒造りに汗を流しています。それぞれの思いは違いますが、純粋な思いが周りを巻き込んで、元気で楽しい地域になろうとしています。 (上毛新聞 2006年1月24日掲載) |