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◎アジアで信頼得てこそ 今年の八月下旬、久しぶりで台湾へ行った。靖国問題などで、中国や韓国との関係が厳しさを増していたころであった。福田赳夫元首相が唱えたどこの国とも仲良くする全方位外交のことが、頭をかすめたが、台湾も同じように厳しいのではないかと思い、緊張感を持って飛行場に降り立った。 バスで台北に向かうときから、案内してくれたのが王さんであった。王さんのわれわれ日本人に対する感じは、考えていたのと全く違っていた。非常に親日的で、むしろ中国に対する批判的な言葉すら口に出していたのである。 これにはびっくりした。それでもこの人だけが特別なのであろうと思い、緊張して行動しなければという気持ちは消えなかった。しかし、訪ねたあらゆる所で、親しみをもって迎えてくれたのである。 主な訪問先は故宮博物院、順益台湾原住民博物館、国立中央図書館台湾分館、台湾文献館、総統府などである。中央図書館台湾分館では、案内の人が日本語の歌を歌ってくれ、総統府では案内の人が自分で買ったお土産まで「記念に」と言ってくれたのである。 台中郊外の南投市にある台湾文献館では、中京大学の先生や学生が十数年もかかって文献館の資料の整理を手伝っていた。群馬県の人も加わっていたのである。扱っていたのは、日清戦争後、日本が台湾総督を置いて統治をしていた時代、五十年間のものであった。 最初はにべもなく断られたそうである。しかし、何度もお願いをし、心を込めて話し合いをしていく間にわだかまりが解けて、両者が協力して膨大な資料を整理・保存していくようになっていったそうである。今では毎年出かけて行き、なごやかに整理作業にあたっている。 さらに驚いたのは、日本人の手になる総統府(総督府)や駅舎、日本家屋、日本庭園などがきちんと保存されていたことである。なかには重要文化財となっているものもあった。日本統治時代の恥をさらすものとして、破壊してしまわないのである。 こうしたことは、台湾が置かれた国際的立場が、背後にあるのは確かであろう。 福田元首相は昭和五十二年八月、東南アジア諸国を歴訪し、マニラで「福田ドクトリン」を発表した。「アジアの平和が世界の平和をもたらす。アジアの国々と、対等で心と心のふれあう信頼関係を築く。日本の繁栄はアジアの平和と安定があってこそ成り立つ」が、その基本的な考え方であった。 外交は近所付き合いと同じである。自分の意見だけを主張して、理解してくれといくら言っても、外交は成り立たない。二十一世紀はアジアの時代である。アジアのなかで信頼を得てこそ、日本の平和と繁栄があるのではなかろうか。 台湾で福田元首相と、「福田ドクトリン」の重要さを考えさせられた日々であった。 (上毛新聞 2005年12月30日掲載) |