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◎不安を理解して共感を 障害児を持つ母親を取り巻く「冷蔵庫ママ」問題をご存じだろうか。 私は普段、言葉や声、聞こえに問題がある成人や子供にリハビリや相談、指導を行う言語聴覚士(国家資格)として、中之条町にある沢渡温泉病院にいるが、院外では県障害政策課の事業で中之条保健福祉事務所と共同で行う発達相談に参加している。ここにはさまざまな原因によって、言葉が遅い子供たちが多くやって来る。そのようなお子さんを持つ母親と話していると、気になる問題によく出合う。言葉の問題で悩んでいる母親の精神的な孤立も、その一つである。 厚生労働省の少子化対策大綱(二〇〇四年)では、誰にも相談できない人の割合を減らすなど孤独な子育てをなくすことや、家庭教育支援、学習機会や情報提供などを推進するとしている。それに加えて、子育て本や雑誌が多く出版され、すでに民間の支援も多岐にわたっている。しかし、そのような支援ではなかなか拾いにくい問題、例えば障害は母親のせいだと周囲から思われてしまうなど、この相談会で感じることがよくある。 アメリカに「冷蔵庫ママ(Refrigeratormother)」という有名な話がある。一九五〇―七〇年代には、自閉症(コミュニケーションがうまくとれず、ものなどに対する強いこだわりが見られる)の原因は母親の愛情不足であるとされた。当時は医学的な原因が不明だったため、自閉的な子供を持つ母親は「冷蔵庫のように冷たいママ」と呼ばれ、家庭でも社会でも冷遇された。 その原因は愛情や育て方の問題ではないと現在は考えられているが、この相談会でもこれと似た現象として、子供に問題が見つかると、その原因を誰かのせいにしたいという思いが働き、実際に家族の中で犯人捜しが始まっている場合が見受けられる。そして、その犯人となってしまうのは、多くの場合やはり母親である。例えば家族関係について質問すると、多くの母親が子供の問題は自分の育て方が悪いからだと答える。また、家族からはっきりと「お前が悪い」と言われた人や、「相談に来たことは秘密にしてほしい」と頼む人までいる。 何か問題があると、誰かのせいにしたくなるという気持ちは十分理解できる。しかし(多くの場合、母親が原因ではないにもかかわらず)育て方が悪いと母親を責めても何の問題解決にもならない。むしろ、子育て支援では母親を精神的に支えることが基本となる。不安を取り除くことはすぐにはできないが、不安を理解し共感することはできる。それができる最良の人物は、実は専門家ではなく夫であり家族なのだ。 特に子供が小さい場合は、母親を支えなければ子供はうまく育たない。なぜなら、安定した母子関係それ自体が言葉や認知能力といった子供の脳の発達にとって基本的な刺激となるからである。原因が不明であればあるほど、いつの時代も母親が一番責められやすく、またつらい立場にあることを忘れてはならないだろう。 (上毛新聞 2005年12月28日掲載) |