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◎私たちの悩みは小さい どうして、あんな笑顔ができるのだろう。なんであんなに生き生きと働けるのだろうと思った。 今年の夏、いとこと私の父の墓参りに栃木県田沼町に行く途中、この辺りにブドウジュースやワインがおいしい所があり、知的障害者が入所して働いているというので、立ち寄ってみることにした。足利市田島町の山奥である。山の斜面にブドウ畑が広々と見え、入り口に「こころみ学園」とある。車を降りてみると、ブドウ園では、ブドウの手入れをしている園生と職員の姿が見えた。常に大きく声を出し合いながら作業している。表情、動きは明るく、私たちに手を振ってくれた。 「ココ・ファーム・ワイナリー」の設立者である川田昇氏は、中学の特殊学級の教員だった時、核家族の増加、大家族の減少によって知的障害者の収容施設が必要になると考え、一九六九年に「こころみ学園」を設立した。 学園では、園生が共同生活をし、農作業を通じて、自然から最も基本的なことを学んでいる。例えば木を植え、育て、実がなる。文字通り、自分が働いた成果を見るのだ。園生は十七歳から八十四歳とさまざまで、障害の症状は自閉症からダウン症にまで及ぶ。園長が最も重要視していることは、彼らを室内に閉じ込めるのではなく、健康的な野外活動をさせることだった。 学園ではワインづくりのため、最初は生食用ブドウの栽培を中心に大変な苦労があったようだ。そして、山の斜面を使い、体を動かしながらの作業や生活を通じた適切な訓練を施せば、例え、ある年齢に達した知的障害者でも従来考えられていたより、はるかに大きな能力を引き出すことができるという。 また、ひもじさに耐えた後の食事のうまさ、暑さ寒さに耐えた後の涼しさや暖かさ、疲れた後の休憩、眠さに耐えた後の眠る喜びなどが作業を通じて、体を通して味わうことができる。そうした生活の中から自らの情緒を安定させ、やる気と耐える心を自然に身につけることになる。 知的障害者が働く姿は生き生きとし、働く喜びを体全体で表している。私たちは、恵まれた健康な体と満ち足りた生活が当たり前だと思っている。見比べれば、私たちの苦労や悩みなどはちっぽけに思え、頑張れば、あきらめず努力すれば、人間できるのだと教えてくれる。生活や仕事、進路や友人のことなどでくじけそうになっている人はもっと夢をもち、前進、トライすることを考えてほしい。 私たちが帰る時、一人の園生が手を振りながら近寄って来て、「また来てね、バイバイ」と最高の笑顔で見送ってくれた。本当に癒やされた一日だった。時々、学園に出かけ「ココ・ファーム・ワイナリー」で食事をし、明るく、仕事をする姿を肌で感じ、明日への活力となっている。皆さんも一度出かけてみてはいかがだろう。何かいいことが、きっとあると思う。 (上毛新聞 2005年12月10日掲載) |