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◎子の教育の責任は親に 暮れも押し迫った昭和六十年十二月の大みそかの深夜に自宅の電話が鳴った。県警のある方からの連絡であった。娘を道連れに自殺するとの悲痛な叫びで、助けを求めている母子がいる。暮れも押し詰まったこの時期に申し訳ないが、過去の経験から貴殿へ相談依頼したい―とのことであった。 すぐに母子と連絡を取った。興奮状態の母子との会話からは理由がまったく分からない。取りあえず母子を迎えに行くので、自殺は留まるように伝えて、電話を切った。早速保護されている警察署へ出向き、拙宅へ連れて来た。母親は憔悴(しょうすい)し切った表情で、娘は真っ赤な口紅を付け、反抗的な態度をとっていた。 その夜は遅いので、取りあえず食事を済ませて風呂に入ってもらい、就寝させた。母親は眠れなかった様子で早朝に起床、娘は昼過ぎに起きた。見知らぬ家ではあるが、多少の安堵(あんど)感からか、母の表情が少し穏やかに見えた。娘の表情は昨夜と変わらない。娘の起床に合わせて遅い朝食を済ませ、母親から事情を聴いた。 簡潔に記せば、娘の非行(中学校内での脅し、暴力的行為、コンビニなどでの万引等)が発覚し、父親からそろばんが壊れるくらい殴られたり、暴言、暴力を受ける日々で、母親としてなすすべがなく、死を決意したという。 経済的には大変恵まれた家庭であった。しかし、多感な年ごろを迎えた娘に大切な両親の適切な指導、教育指針がなかった。親の言うがままに育った小学生時代の指導を、中学になった娘に何の配慮もせず、継続したことが主因と思えた。 数日後、娘が落ち着いたころあいを見計らって、幾つか尋ねてみた。娘は中学校でいじめに遭う生徒をかばうため、そのリーダー的な存在として行動しているうちに非行に走ってしまったという。私と静かに話した結果、娘は非を素直に反省し素行を改めると誓ってくれた。 中学生になると自立心が芽生え、大人のまねをしたくなる。両親には「すべてを否定せず娘の話を真しん摯しに聞き、一定の自覚と責任を持たせて行動させる。ただし、すべての責任がとれる社会経験、知識はないので、報告はきちんとさせ、適切なアドバイスをする」よう伝えた。その後、幾多の困難、試練はあったが、娘は三十歳を過ぎた現在、埼玉県内の某所で四児の母親として幸せに暮らしてる。 自分の過去を生かして子供の教育に専念。単に非行と責めるのは易しいが、指導、助言、教育するのはすべて親の責任である。学校や教育関係者に責任を転嫁する昨今の姿勢を見直し、責任の大半は両親にあることを自覚してほしいと願う。 (上毛新聞 2005年12月9日掲載) |