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三宿病院薬局長 鎌田 泉さん(東京都品川区)

【略歴】桐生市出身。桐生女子高、東京理科大薬学部卒業後、薬剤師国家試験合格。国家公務員共済組合連合会虎の門病院勤務を経て、03年から三宿病院薬局長。

医療と臨床薬剤師


◎前線で活躍する存在に

 私が就職したころは、まだ医薬分業が進んでおらず、病院薬剤師の仕事は医師の処方に従って薬を取りそろえ、誤りなく患者さんに渡すことが主でした。薬剤師の守備範囲は薬局内に限られていました。また、かつての医療は一方的に与えるもので、薬剤の処方も「投薬」と呼ばれていました。現在では「インフォームド・コンセント(説明と同意)」をキーワードに、医療の主体は患者に重点が置かれ、治療方針の決定権も患者自身に帰属するようになってきました。

 医療を取り巻く社会の変容とともに、病院薬剤師の仕事も大きく様変わりしました。まず、患者さんへの薬の名称、効能・効果、副作用などの情報提供が求められました。さらに、高度に分化された現代医療の中では、薬剤師も医師と同様に専門性を持つことが求められつつあります。こうした中で薬剤師にも医療の担い手の一員として、薬局の外の現場での業務が求められるようになりました。臨床薬剤師とは、このように医療現場で実際に活躍する存在といえます。

 もちろん、薬剤師には医薬品を介在しての院内感染対策業務、医療事故防止対策業務など直接、患者さんにかかわらない業務もたくさんあります。医薬品の選定・在庫管理などの仕事を通し、病院経営に経済的にかかわることも重要な任務の一つです。

 私は小児科領域でインスリン、成長ホルモン剤などの「在宅自己注射療法」を専門的に指導する仕事を担当してきました。小児科での指導は保護者とのかかわり抜きには考えられません。そのため、患者・家族会にも深くかかわってきました。こうした経験を通して、ボランティアで「NPO難病のこども支援全国ネットワーク」のお手伝いもしています。そうした所で出会う職種は医師、看護師、養護教諭が多く、これまでは薬剤師の姿はほとんど見当たりませんでした。

 近年の薬剤師の変遷期を現場で過ごせたことは有用な経験でした。薬局の中で、ひたすら処方せん調剤をこなした時代を経て、現在は医療の前線で医師や看護師とチームを組んだ仕事に取り組めるようになり、仕事とは別に社会的な活動にもかかわれるようになりました。これは臨床現場での専門的な仕事の積み重ねがあったからであると感じています。

 生まれ育った群馬で、私はガールスカウト活動に熱心に参加しました。活動の一環で何度か訪問した知的障害のある子供の施設「わたらせ養護園」での体験や、そこで出会った指導者から受けた影響が今の仕事に結びついていると感じています。

 平成十八年度から薬学教育は六年制に移行します。われわれの経験が大学教育に生かされ、さらに薬剤師像が変化していくと予想されます。このシリーズでは臨床薬剤師の立場で糖尿病と食育、高齢者の医療、医薬品管理者の立場で医療経済などについて、論述させていただきたいと考えています。

(上毛新聞 2005年12月7日掲載)