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県社会福祉協議会会長 宮下 智満さん(子持村白井)

【略歴】早大卒。1962年群馬県庁入庁。医務課長、地方課長などを経て01年保健福祉部長。04年保健福祉食品担当理事。05年3月退職、同年7月から現職。

人生のラストステージ


◎生き方自ら見つけたい

 大変ショッキングな題名の本に出会った。

 評論をはじめ、さまざまな分野で幅広く活躍され、本県にも縁の深い俵萠子氏の最近の著作『子どもの世話にならず死ぬ方法』である。その刺激的なタイトルに引かれ、一気に読まされた。内容も大変生々しく、また多くの示唆に富むものであった。

 まず、遠く大阪で弟夫婦と暮らす著者の母親が八十五歳で倒れ、九十二歳で亡くなるまでの七年間、その闘病に直面した俵氏の体験が実に赤裸々につづられている。遠く離れていて思うように見舞いや介護に行けないもどかしさ。同居する弟の嫁にこびへつらう母のみじめな姿。はいかいする母への仕打ちに対する弟夫婦への怒り。「遠くの人間に、そばにいる人間の苦しみがわかるか!」という弟嫁の悲痛な叫び。

 みんな頑張って、死ぬほどつらい思いをして介護に取り組んでいる。それなのに母の終末のステージは、決して幸せなものであったとは思えない。これでは誰も報われないではないか。もっと違う在り方はないのか。

 そこから俵氏の「子どもの人生を巻き込まずに死ぬ方法」探しの旅が始まる。自分はあんな思いを子供にさせたくない。母だって、自分の年金、家、屋敷、なにがしかの蓄え等を自分のために使おうとすれば、子供をあんなに苦しませず、もっと誇り高く死んでいく方法があったのではないか。

 プロのケアが付いた良い施設はないのか、俵氏は五年間にわたって約百カ所の老人ホーム等を訪ね歩く。多くの友人、知人、関係者の考えや体験談を聞き、自分と同じことを考えている人が大勢いることを知る。そして上手に実践している人がいることも知る。要は、親が子に美田を残さない覚悟。子が親の資産を当てにしない覚悟。双方がその覚悟さえしっかり持てれば、かなりの「介護哀話」は消滅していくはずだ、と訴える。

 そして倒れる前に、元気なうちに、自分の全資産をどう使い、どういうラストステージを過ごすのか、よく考え準備をしておくべきだ、と主張されている。

 こうした俵氏の考え方には、賛否さまざまな意見があると思う。現に多くの高齢者は、住み慣れた家庭や地域で暮らしたいと考えている。また「子が親の最後の面倒をみる。これこそ日本の家庭の理想の姿ではないか。それを捨てるのか!」という意見は根強くある。大切な意見、考え方であると思う。

 しかし、在宅介護の現場で相当数の介護悲劇が起きており、親、子供双方が共に苦しんでいる現実があることも事実である。高齢化がますます進む中で、待ったなしの対応が迫られている。人はすべて環境、条件が違う。人生のラストステージの生き方についても、百人百様の答えがあると思うが、それは自分で見つけるしかない。その答え探しに、本書は多くの示唆を与えてくれると思う。多くの人にぜひ一読をお薦めしたい。

(上毛新聞 2005年12月6日掲載)