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◎古来から時空の克服で 「衣食足りて礼節を知る」。おおよそ日本人であれば、このくだりを知らない成人はいない。なぜ、現代的なマルチメディアを語るのに、古風な孔子の引用から始まらなければならないのか。 その理由は、マルチメディアと地方文化の関係が、このくだりですべて言い尽くされてしまうからである。などと言っても、にわかには信じがたい。そこで、マルチメディアがもたらす恩恵とは何か、本当に必要なのかという素朴な疑問から始め、このシリ―ズの最終回にこの発言の真偽にたどり着きたい。 一般にマルチメディアで重要なことは、コンピューターやデジタル化された情報を再生できるテレビなどで高品質な動画像や音声を楽しむことができるようになった、と言われている。これには、録画再生のみのDVDなどのメディアのみならず、インターネットに接続されたコンピューターで視聴するネット放送などを含むさまざまなメディアがあり、十代後半から三十代を中心に広く普及しつつある。 さらに、二〇一一年には日本の放送はすべてデジタル化されることにもなっている。しかし、動画像や音声であれば、従来のテレビやビデオで十分ではないか。なにも最先端のマルチメディアを使う必要はないなどと主張すると、「従来のメディアは見聞きするだけ、ネット放送に代表されるマルチメディアでは、自分の作品を発信できる。参加型であるところが違うのだ」と叱られてしまう。 でも、ちまたにはお祭りやイベントなど自ら発信できる場、すなわち参加可能な行事があふれ返っているではないか。何も今更、マルチメディアに頼る必要などない。それにもかかわらず、人々はデジタルへ、マルチメディアへと向かっている。 古来、人々は豊かさという欲望を追い求めてきた。まず食料や寒さをしのぐための衣服、住居の確保に力を注ぎ、それがかなうと、次は楽しさや自分の生き方などを追い求めた。つまり、衣食足りて礼節(心の豊かさ)を知る。物質に始まり心に至る豊かさの追求である。それでは、人々は欲望を実現するために何をしてきたのか。それは時間と空間の克服である。 文学の中でも、いにしえの魔女や仙人は、ほうきや竜に乗って瞬間移動を行うなど時空をコントロールすることで、物質的な欲望をかなえることができる存在として登場し、人々を魅了する。そして最後に、魔女は久遠の世界へと旅立っていく。仙人はタオ(道)と呼ばれる時空を超えた存在と一体化する。すなわち究極の心の豊かさを得るのである。現実世界の時空克服の歴史も、これとさして変わらない。 次回以降、時空克服の歴史と心の豊かさについて、すなわちマルチメディアの進展と地方文化について、群馬の実例をまじえながら冒頭の発言を検証していこう。 (上毛新聞 2005年12月2日掲載) |