視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
|
|
◎感染爆発前夜の兆し アメリカで活躍している中村修二教授が発明した青色発光ダイオードの電飾に塗り替えられたスズラン高崎店前のタブの木に今年もレッドリボンがあった。まるで仲良く乱舞しているように見える。街行く人は、この巨大ツリーをどんな思いで見上げながら通り過ぎて行くのか、気に掛かるところである。 一九九六年十一月、世界エイズデーに向けて「世界エイズデーinたかさき」を立ち上げ、「ストップザエイズ」の名の下にレッドリボン運動がスタートし、高崎市内の全小中高校の児童生徒はもとより、行政、家庭、地域社会を巻き込んだ運動を展開していった。そのとき、スズラン高崎店と地元商店街の協力で大きなタブの木に全長十八メートル、七千個の電飾がちりばめられたレッドリボンが掲げられた。 あれから十年。エイズという言葉が報道されることも間遠になった今、ストップザエイズは効果をもたらしているのだろうか。人々が感動の中で点灯したレッドリボンという言葉と意味がどれくらい伝播(でんぱ)しているのか、いささか疑問である。 あの年、一年間に発生したエイズの感染と患者の数は四百四十六人だった。昨年は何と千六十五人と、およそ三倍を記録した。検査を受ける人は年々減少し続けている現状の中で、患者感染者は増え続けている。この相関関係は深刻であり、エイズ感染爆発前夜の兆しが感じられる。 厚生労働省は、本年度の世界エイズデーのキャンペーンキャッチフレーズに「エイズ あなたは関係ないと思っていませんか」を掲げた。「エイズはなくなったのではないですか」と驚かれたり、「レッドリボンて何のこと」と問われることが多々ある。この危機感のなさがエイズの感染を増幅させる結果になっているとさえ思える。 日本の現状をWHO(世界保健機関)も「先進国の中でほっとけない状況」と警告し、また、今年の七月、神戸で開かれたアジア太平洋地域エイズ国際会議で、議長も「日本は若者の教育が急務」と提言した。 私は、大学でもエイズのテーマを講義に意識的に組み込んでいる。社会教育の一環である人権講話や子育て支援の講演会でもエイズの話を織り込む。長い間、追い続けてきたこのテーマが、今また新たな思いで目が離せなくなっていることを痛感している。 先日、高崎市内の小学校のPTAセミナーにお招きいただいた折、校長室や廊下のコーナーに啓発用のレッドリボンりんごが飾られていた。これはNPO群馬の活動である。 レッドリボンを胸に付けている人の多くは教師である。残念ながら、まだ教師の域を出ていないのが現状だが、世界からの警告をマスコミ、政府や行政、教育現場はもっと謙虚に受け止め、それぞれができることから始めようではないか。きょう十二月一日は「世界エイズデー」である。 (上毛新聞 2005年12月1日掲載) |